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No.16:トモイ「食事が喉を通らない」
【6月14日 19:00・11階ダイニング】
カイリ主催の夕食会に参加するため、ダイニングルームへ向かう。
僕は時間ギリギリまで、前髪を整えたり、やっぱりこっちの服にすると着替えをしたりしていたけれど、アラタは呆れつつも、辛抱強く待ってくれた。
会場につくと、もう皆が席に着いている。
20人以上が座れる長いテーブルの上座、いわゆるお誕生日席にカイリの席が設けられ、皆、少しでも彼に近いところへと争奪戦のように座っていったようだ。
アラタが窓を背にしたテーブルの長辺の端に座り、僕はテーブルの短辺に一人、カイリと向き合うように座った。
向き合うといっても10席分離れているので、声を張らなければ会話もままならないだろう。
でも、緊張している僕にはこれくらいの距離がちょうどいい。
僕とアラタが着席し三分ほどして、定刻通りにカイリがダイニングルームへ入ってきた。
椅子に座っていた皆が、ビシッとその場に起立する。
「こんばんは。今夜はお集まりいただきありがとうございます。選ばれし皆さん、どうぞ、着席ください」
皆は会釈をし促されるまま座ったが、僕だけ一歩遅れを取り、立ったままになってしまう。
だって、カイリが僕が思い描く豪華客船のイメージ通り、豪奢なシャンデリアの下で映えるミッドナイトブルーのタキシードを身に纏っていたから。
(タキシード姿が様になっていて、本当に格好いい。王子様、いや王様みたいだ)
「おい、トモイ、トモイ。どうした?」
アラタが小声で呼びかけてくれ、我に返った僕は慌てて座る。
皆の視線はカイリに向かっていたから、僕のおかしな行動に気付いたのは、アラタだけで助かった。
食事はフランス料理のフルコースだった。
食前酒としてシャンパンが振舞われ、アミューズ、オードブル、スープと進んでいく。
カイリに席が近い人たちは積極的に彼に話しかけ、会話を弾ませていたが、僕はその姿を眺めたり、アラタやその周辺の人と、細やかな会話を交わすだけで精一杯だ。
真鯛のポワレも、喉を通っていかなかった。
僕の斜め前に座っていた髪が長めの男性が、子羊のパイ包み焼きにナイフを入れながら、小声でアラタに話しかけた。
「アッパーデッキへ上がれた俺たち21人の中から、カイリ様が自分の右腕を一人選ぼうとしてるって噂、聞いたか?」
「いや、知らないけど、城井財閥の御曹司ともあろう人が、こんなどこの馬の骨とも分からないメンバーから、優秀な人材を探す必要なんてないだろ?」
「俺もそう思う。だけど、見ろよ、上座に近い位置に陣取った奴らを。目の色変えて、カイリ様とお近づきになろうとしてるだろ?」
僕も促されるままに、彼らを見る。
メインの肉料理までコースが進んだ今、赤ワインに酔ったのか、頬を赤らめ、目つきをギラギラさせ、カイリに釘付けになっていた。
(ちょっと怖い。なんだかみんな、何かに憑りつかれているみたいだ……)
「トモイ、さっきから全然食べてないな。調子が悪いのか?」
アラタが心配してくれる。
「ううん。違うんだ。僕、緊張しちゃって。あとフランス料理なんて食べ慣れないから、気後れしちゃうというか。それに、やっぱり甘く感じるんだよね、全ての食べ物が。船酔いのせいで、味覚がおかしくなっているのかも……」
この喉に張り付くような変な甘みは、いったいなんなのか。
ここにいる他の人たちは、より一層強くなったこの味の違和感が気にならないのだろうか……
「そっか。じゃ、食べれるものだけ食べればいいよ。無理しないようにな」
「うん。アラタよかったら、これも食べて」
「サンキュ。遠慮なく、もらってやるぞ」
僕は出された料理の半分も食べられず、デザートに出されたクレープが青い炎でフランベされるワゴンサービスも、見るだけになってしまう。
ただ食事に夢中にならなかったからこそ、僕を除いた20名の様子をよく観察できた。
食後のコーヒーを飲む皆は、アラタを含め、顔が上気していて、なんだか浮足だっている。
やはり1000人から選ばれたという名誉に、酔いしれているのかもしれない。
僕も少し、身体の中からトロリとした熱が浮き出そうな気分だったけれど、他の皆より自分のほうが冷静だと思えた。
光栄なはずなのに、気味の悪い食事会だと感じてしまったのは、どうしてだろう……。
年代物の高級赤ワインが、皆の酔いを加速させたのかもしれない。
そう考えていたら、参加者一人一人を確認するように見渡していたカイリと目が合い、僕の心拍数は、跳ね上がった。
—
部屋に戻ってすぐ、アラタは身体が熱いとシャワーを浴びた。
続けて僕もシャワーを使い、二人とも早々に、隣り合った大きくフカフカなベッドへ入る。
アラタは余程疲れていたのか、バスローブを羽織ったまま眠ってしまったようだ。
真夜中。
幼い頃からの癖で、布団にもぐるようにして眠っていた僕は、ふと目を覚ます。
「はぁはぁ」と乱れた呼吸が耳に聞こえてきた。
最初は、アラタがお腹でも痛く、苦しんでいるのかと思った。
しかし、その吐息は、とてもとても甘ったるい。
頭まですっぽりかぶっていた布団の隙間から、隣のベッドを覗き見る。
「あっ、ん……」
アラタが布団の中で、自慰をしているのだと気配で分かった。
同じ男として、気付かないフリをしてやり過ごせばいい、最初はそんなつもりだった。
でも、アラタの行為はエスカレートしていく。
僕の目を気にして布団の中にいただろうアラタは、暑いのか徐々に布団から身体を出した。
彼が纏っていたバスローブは乱れ、肌が露わになっている。
僕自身がそれを見て、欲情するようなことは決してなかったけれど、彼の行為から目が離せなくなった。
最初は、彼の右手が彼自身をしごいているだけだったのに、そのうち左手が、胸の突起をいじりはじめ、アラタのあげる吐息はより甘く大きくなる。
彼の右手は、下腹部を離れ、もっと奥へと伸びた。
角度的にはっきりは見えなくても、彼の指が後孔へと入っていくのが分かる。
「あっ、あつい、すごい。……んっ、きもち、いい。……な、なんで、どうして?……」
アラタが強い快楽を追い求めながら、酷く戸惑っているのが分かった。
堪らなく気持ちよさそうな声を上げながら、その快感に恐怖を覚えているような、傍から見てもおかしな状態だ。
「すごい、あっ、ぬれている。どうして、どうして、こんなことに……でも、あっ、いい、きもち、いい」
濡れてる?
アラタは僕がいるのを忘れたかのように膝を立て、自慰にふけっていた。
部屋にはグチュグチュと水音が響いている。
「ま、まさか、これって……。こんなふうに、ぬれてくるなんて……あぁ、もう、もう、だ、だめっ。いいっ」
(「まさか」ってアラタは自慰の途中で、何に気が付いて驚いているのだろう?)
「いっ、いく!」
アラタはただ吐精しただけとは思えないほど、大きく身体を唸らせ、達したようだ。
「お、おれが、オ・・……」
そして何かを呟き、そのまま気絶するように眠ってしまった……。
僕は部屋に充満した性的な空気に影響されたのか、自分の中にも、熱いマグマのようなものが滾っているのを確信した。
ドクドクと身体に血が巡っているのを強く感じる。
けれど、ギュッと目をつぶり、それを考えないよう必死に眠みを引き寄せた。
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