23 / 27
No.23:トモイ「溢れ出る欲望のままに」
【6月16日 02:00・ベッドルーム】
僕がカイリのベッドの上にこんもりと作った巣が、彼の手で乱暴に、取り払われてゆく。
高級なタキシードまで持ち出してこんなことをした申し訳なさ、着崩れたバスローブを裸の上に羽織っているだけという羞恥、カイリを怒らせてしまっただろうことへの悲しみ……。
「ご、ごめんなさい。ごめん、なさい」
涙を流し謝ることしかできず、バスローブだけを死守して、ベッドの上で丸くなる。
本当はカイリに触れたい。
可能ならば、抱きしめてほしい。
いや、欲望はもっともっと深く汚らわしく、僕はその気持ちを隠そうと、顔をシーツに埋める。
「顔を、上げろ」
今までテレビで見た姿や、一昨日の名刺交換会での上品な雰囲気とは、違う声。
野性的で切なげな、カイリの掠れた声が僕に指示を出す。
戸惑いを覚えたけれど、彼が今どんな顔をしているのか見てみたくて、ゆっくりと顔をあげた。
すぐ近くにカイリの顔がある。
その距離は3センチ。
そのまま、ぶつかるように唇が重なった……。
彼の舌が歯列をこじ開け、入り込んできた。
僕の口の中を、舐るようにくまなく泳ぎ回る。
(あぁ、キス、きもち、いい……)
すでに熱くドロドロに溶けていた僕の何かが沸騰し、身体中を駆け巡っていく。
僕は、彼の背に手を回し、溺れてしまわないように縋りついた。
指先が偶然、彼の背中の引き攣れた傷跡に触れ、あのときの傷だと気がつけば、その証に更に酔いしれる。
唇を僕の首に這わせながら、カイリは、自分の首元で少し緩んでいたネクタイをむしり取り、シャツのボタンを引きちぎった。
ガチャガチャと音を立てベルトを外し、下半身も裸になる。
僕も、纏っていたバスローブを脱ぎ取り、ベッドの下へと落とす。
肌と肌が触れあえば、言葉なんて必要なかった。
この人は今、僕を欲してくれていると理解できた。
(僕だって、貴方に全てを捧げたい!)
甘い甘い吐息が、自分から零れ出る。
互いの形を変えたものが触れあえば、その刺激だけで達してしまいそうだった。
カイリの唇が僕の鎖骨を、胸の突起を、へそを、脇腹を、確かめるように進んでいく。
彼の息遣いも荒々しく、余裕がないのが見て取れた。
カイリの手が躊躇いもなく、僕の後孔へと伸びる。
もちろん誰にも触られたことのない場所、自分でだって触ったことのない場所。
硬く閉じているから、指なんて入らないと思っていた。
けれどカイリの長い指は、グジュリと水音をたてそこへ潜り込んでゆき、僕に味わったことのない快楽をもたらす。
「んっ、あぁっ」
「すごい、ぐっしょり、濡れている……これがオメガなのか……」
感じ入るようにカイリが呟いた。
「ぬ、濡れている?」
予期しない自分の身体の反応や、強すぎる快感に恐怖が生まれる。
けれどカイリは、先を急いでいるようでありながら、まるで僕を崇めるように、宝物のように扱ってくれた。
(ゆ、指だけでこんなにも気持ちいいなんて、彼を迎え入れたら、あぁ、どうなってしまうのだろう……)
「続きを、しても、いいか?」
指が引き抜かれ、最終確認のように聞かれれば、僕はコクリと頷く。
「挿れるぞ」
カイリの硬いものが一気に僕を貫き、大きな嬌声を上げてしまう。
突き上げられ、揺さぶられ、僕はシーツをきつく掴んで、自分が欲していたのがこの行為だったと、理解した。
粘膜が熱せられて、気持ち良くて、高い声を上げながら、彼のものを締め付け、達した。
カイリも短く呻き、僕の中で吐精したのが分かり愉悦を感じる。
ドクドクと放出されたのちも、彼のものは僕から抜けない。
ずっとずっとこのままでいたい程、満たされた身体は、満足のあまり意識を飛ばした……。
次に意識がクリアになったとき、再び硬くなった彼のものが僕の中で暴れていた。
カイリの腰使いが僕を揺らし、追い込んでくる。
僕の後孔は湧き出るようにたっぷりと濡れて、イヤらしい水音を立て続けた。
「あぁ、いいっ」
そんな行為を、何度繰り返しただろう。
互いに求めあって、貪りあって、体力が尽き果てるまで、僕たちは身体を重ね続けた。
—
窓の外が、少しずつ明るくなってくる。
日の出だ。
30センチほど開いたカーテンの隙間から、寝室に朝の眩しい光が入ってきて僕の顔を照らす。
カイリはその光に沿って、愛でるようにオデコから順に唇を滑らせてゆく。
性的な欲望というよりも、まるで僕のことが愛おしくて堪らないかのように、愛でてくれる。
首筋で彼の唇は一旦止まった。
うなじを舐め、ほんの少し歯を立てて甘噛みするが、ぐっと堪えるように胸へとキスを降ろす。
彼と真夜中に何度も何度も身体を重ねたときも、カイリはこの動作をしていた。
まるで、うなじに湧く甘い蜜を啜ろうとして、思い止まるかのような仕草を……。
朝日は、僕の下半身をも照らし始める。
恥ずかしくなり隠そうとするが、カイリが僕の手を拘束し、阻止してきた。
そんな戯れに、互いにクスクスと笑い合う。
そして彼は光の中、全てを目に収めるかのように、ゆっくりと、僕の太腿を開いていった。
そのとき。
甘く蕩けていた彼の顔が、酷く驚いたものへと、一瞬で変化した。
僕はその理由に思い当たる。
「この傷、醜いですよね……。でも、カイリさんに、助けてもらったときの傷だから……。僕にとっては、大切な、傷痕です……」
「わ、私が助けた……?」
「覚えてらっしゃらないかと思いますが、15年前、雪の日の鉄橋崩落事故で……」
「い、生きていたのか……」
搾りだすような声でそう呟いた。
「え?あっ、はい。カイリさんのお陰です」
彼はその言葉を受け、僕をギュッと抱きしめてくれる。
行為中も身体を密着し続け、とても幸せだったけれど、それよりも更に愛のこもった力強い抱擁だった。
「そうか、生きていたのか……、そうか、よかった……」
涙をポロリと一粒こぼしながら、愛おしそうに、太腿の傷痕を撫でてくれる。
そして、まるで僕の匂いを嗅ぐように、鼻から大きく息を吸い込んだ。
ともだちにシェアしよう!

