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No.23:トモイ「溢れ出る欲望のままに」

【6月16日 02:00・ベッドルーム】 僕がカイリのベッドの上にこんもりと作った巣が、彼の手で乱暴に、取り払われてゆく。  高級なタキシードまで持ち出してこんなことをした申し訳なさ、着崩れたバスローブを裸の上に羽織っているだけという羞恥、カイリを怒らせてしまっただろうことへの悲しみ……。 「ご、ごめんなさい。ごめん、なさい」 涙を流し謝ることしかできず、バスローブだけを死守して、ベッドの上で丸くなる。 本当はカイリに触れたい。 可能ならば、抱きしめてほしい。 いや、欲望はもっともっと深く汚らわしく、僕はその気持ちを隠そうと、顔をシーツに埋める。 「顔を、上げろ」 今までテレビで見た姿や、一昨日の名刺交換会での上品な雰囲気とは、違う声。 野性的で切なげな、カイリの掠れた声が僕に指示を出す。 戸惑いを覚えたけれど、彼が今どんな顔をしているのか見てみたくて、ゆっくりと顔をあげた。 すぐ近くにカイリの顔がある。 その距離は3センチ。 そのまま、ぶつかるように唇が重なった……。 彼の舌が歯列をこじ開け、入り込んできた。 僕の口の中を、舐るようにくまなく泳ぎ回る。 (あぁ、キス、きもち、いい……) すでに熱くドロドロに溶けていた僕の何かが沸騰し、身体中を駆け巡っていく。 僕は、彼の背に手を回し、溺れてしまわないように縋りついた。 指先が偶然、彼の背中の引き攣れた傷跡に触れ、あのときの傷だと気がつけば、その証に更に酔いしれる。 唇を僕の首に這わせながら、カイリは、自分の首元で少し緩んでいたネクタイをむしり取り、シャツのボタンを引きちぎった。 ガチャガチャと音を立てベルトを外し、下半身も裸になる。 僕も、纏っていたバスローブを脱ぎ取り、ベッドの下へと落とす。 肌と肌が触れあえば、言葉なんて必要なかった。 この人は今、僕を欲してくれていると理解できた。 (僕だって、貴方に全てを捧げたい!) 甘い甘い吐息が、自分から零れ出る。 互いの形を変えたものが触れあえば、その刺激だけで達してしまいそうだった。 カイリの唇が僕の鎖骨を、胸の突起を、へそを、脇腹を、確かめるように進んでいく。 彼の息遣いも荒々しく、余裕がないのが見て取れた。 カイリの手が躊躇いもなく、僕の後孔へと伸びる。 もちろん誰にも触られたことのない場所、自分でだって触ったことのない場所。 硬く閉じているから、指なんて入らないと思っていた。 けれどカイリの長い指は、グジュリと水音をたてそこへ潜り込んでゆき、僕に味わったことのない快楽をもたらす。 「んっ、あぁっ」 「すごい、ぐっしょり、濡れている……これがオメガなのか……」 感じ入るようにカイリが呟いた。 「ぬ、濡れている?」 予期しない自分の身体の反応や、強すぎる快感に恐怖が生まれる。 けれどカイリは、先を急いでいるようでありながら、まるで僕を崇めるように、宝物のように扱ってくれた。 (ゆ、指だけでこんなにも気持ちいいなんて、彼を迎え入れたら、あぁ、どうなってしまうのだろう……) 「続きを、しても、いいか?」 指が引き抜かれ、最終確認のように聞かれれば、僕はコクリと頷く。 「挿れるぞ」 カイリの硬いものが一気に僕を貫き、大きな嬌声を上げてしまう。 突き上げられ、揺さぶられ、僕はシーツをきつく掴んで、自分が欲していたのがこの行為だったと、理解した。 粘膜が熱せられて、気持ち良くて、高い声を上げながら、彼のものを締め付け、達した。 カイリも短く呻き、僕の中で吐精したのが分かり愉悦を感じる。 ドクドクと放出されたのちも、彼のものは僕から抜けない。 ずっとずっとこのままでいたい程、満たされた身体は、満足のあまり意識を飛ばした……。 次に意識がクリアになったとき、再び硬くなった彼のものが僕の中で暴れていた。 カイリの腰使いが僕を揺らし、追い込んでくる。 僕の後孔は湧き出るようにたっぷりと濡れて、イヤらしい水音を立て続けた。 「あぁ、いいっ」 そんな行為を、何度繰り返しただろう。 互いに求めあって、貪りあって、体力が尽き果てるまで、僕たちは身体を重ね続けた。 — 窓の外が、少しずつ明るくなってくる。 日の出だ。 30センチほど開いたカーテンの隙間から、寝室に朝の眩しい光が入ってきて僕の顔を照らす。 カイリはその光に沿って、愛でるようにオデコから順に唇を滑らせてゆく。 性的な欲望というよりも、まるで僕のことが愛おしくて堪らないかのように、愛でてくれる。 首筋で彼の唇は一旦止まった。 うなじを舐め、ほんの少し歯を立てて甘噛みするが、ぐっと堪えるように胸へとキスを降ろす。 彼と真夜中に何度も何度も身体を重ねたときも、カイリはこの動作をしていた。 まるで、うなじに湧く甘い蜜を啜ろうとして、思い止まるかのような仕草を……。 朝日は、僕の下半身をも照らし始める。 恥ずかしくなり隠そうとするが、カイリが僕の手を拘束し、阻止してきた。 そんな戯れに、互いにクスクスと笑い合う。 そして彼は光の中、全てを目に収めるかのように、ゆっくりと、僕の太腿を開いていった。 そのとき。 甘く蕩けていた彼の顔が、酷く驚いたものへと、一瞬で変化した。 僕はその理由に思い当たる。 「この傷、醜いですよね……。でも、カイリさんに、助けてもらったときの傷だから……。僕にとっては、大切な、傷痕です……」 「わ、私が助けた……?」 「覚えてらっしゃらないかと思いますが、15年前、雪の日の鉄橋崩落事故で……」 「い、生きていたのか……」 搾りだすような声でそう呟いた。 「え?あっ、はい。カイリさんのお陰です」 彼はその言葉を受け、僕をギュッと抱きしめてくれる。 行為中も身体を密着し続け、とても幸せだったけれど、それよりも更に愛のこもった力強い抱擁だった。 「そうか、生きていたのか……、そうか、よかった……」 涙をポロリと一粒こぼしながら、愛おしそうに、太腿の傷痕を撫でてくれる。 そして、まるで僕の匂いを嗅ぐように、鼻から大きく息を吸い込んだ。

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