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第8話 知恵と福福(フーフー)
「で、どうする?選ばせてあげる?」
星宇に言われて目を向けると、美少年が台無しなほどに涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっていて、あまりの変わりように吹き出してしまう。
「安全な所に置いてやるって約束だもんなあ。選ばせてやろうか」
愁一がニイッと笑い、立ち上がって近づいてきた。
「天国での快楽地獄か、素の自分のままの快楽地獄か…どっちがいい?未遂だったから、殺さないでやるよ」
腰を屈めて顔を近づけ、笑った顔のまま聞いてやる。
ヂーフェイの顔から笑みが消えた。
「ふ…普通に暮らせない…のか…?」
「そんな訳ないだろう。俺らの事を知ってる人間を、お天道様の下に出すわけにはいかないんだからさ」
愁一はポケットからタオルを出して、ぐしゃぐしゃになった顔を拭ってやって
「で?どっちが良い?天国か素の自分か」
と再び問う。
ヂーフェイの身体が震え、どっちも嫌だと言う。
「それはダメだよ。ヂーフェイ…ああ、そんな名前じゃないか。名前教えてくれよ。最期くらい自分の名前呼ばれたいだろう?」
「いやだ…嫌だよ!解放してくれよ!あんたらのことは誰にも言わないから!絶対に言わないから!」
手首の痛いのも気にせず前のめりに叫んで来るヂーフェイに、側で聞いていた星宇が近寄り
「それがダメだから選ばせてやろうと温情かけてるんだろ。選べないならもう一つ選択肢あるよ」
ヂーフェイが星宇を見た。何かの救済か?
「ここで俺に殺される事だよ」
星宇は言いながら短刀の刃先をヂーフェイの口の中に再び差し込み、一気に薙ぎ払った。
絶望の顔をする暇もなく頬の右側を裂かれ、何が起こったかを実感した途端にコンクリートの壁に悲鳴が反響した。
「おいおい、いきなり手荒すぎねえか?」
「愁一も気が長すぎなんだよ。こんなやつに選ばせる事ないだろ。どうせ表に出すことはできないんだし一気にさ…」
「まあでも、取り敢えずまだなにも『できてない』うちにこうなっちまったんだからさ、出来の悪いやつに少しくらい温情かけたって良いかな〜って」
そんな魔の抜けた会話の前で、ヂーフェイは顔からボタボタと血を滴らせながら
「うああーーーっうああーーーっ」
と意味のない叫び声をあげている。
「うるせーな」
流石に声が大きくて愁一のカンにも触ってきて、騒ぐヂーフェイの髪を掴み目を合わせると、
「あそこにあるドア二つ見えるか?見えるな?どっちかを選べ。天国での快楽か、素のままの快楽か…」
痛みと恐怖に朦朧としたヂーフェイの目が、愁一とドアを震えるように見比べる。
二つあるドアは、一つは普通の大きさだがもう一つは少し大き目な観音開きになっていた。
天国での快楽といったら多分アヘンで中毒にされるんだろう…外の世界にはもう出られないのなら、快感は素で味わいたいと一瞬なりと思ってしまった。
「素のまま…」
切り開かれた頬から顎にかけて喉にかけてを鮮血に染めながら、聞きにくい声でヂーフェイは確かにそう言った。
「だってよ」
髪を乱暴に離して、愁一は星宇に伝える。
「まあどっちもどっちだとは思うけど、まあよりにもよってねえ…」
笑いながら星宇はポケットから軟膏の入れ物を取り出し、その中身を指につけて浮いているヂーフェイの尻の穴に塗りつけた。
「なはに!」
息が抜けた声で叫ぶと、口元から血や涎が飛沫となって飛び散る。
そんなことにはお構いなしに、
「まあまあ、気持ちよくなる薬だよ。これ塗っとかないと気持ちよくなれないんだから任せな」
と、星宇は尻の穴に塗りたくった後、尻の丸みや背中や首筋にも塗りまくる。
「これが香ってるうちは、あんた無事なんだってさ。結構長持ちするらしいけど、俺たち最後まで見てたことないからわかんないや」
『わかんない』の言葉は面白さを堪えるような笑いがこもっていた。
何を言われているのかそれこそ全くわからないヂーフェイは、その後やっとロープを外されその場に崩れ落ちた。
戦おうにも足は強張り、腕は痺れていて動こうにも動けない。
「じゃ、素で味わう快楽部屋に行こうか」
愁一もにこやかにヂーフェイの腕を掴み持ち上げ、
「歩けないなら抱っこしてこうか?」
などと優しげな声をかける。
その手を振り払って、ヂーフェイはフラフラながらもドアに向かって歩き出す。
「積極的だな」
どうせ…アヘン中毒の奴らに差し出されて良いようにされるんだろう。それこそ死ぬまで…だったら自分の足で行ってやる。ヂーフェイは最後の矜持を貫いた。
|星宇《シンユー》が先回りしてドアの前に立つ。
「こっちのドアだよ。そう言うとんがった感じ、俺は好き」
ヨタヨタとドアに向かってきたヂーフェイは、ドアの前に立ち『開けろよ』という風に星宇を睨んだ。
快楽なら素で味わう。そんな覚悟で『どうぞ』と星宇が観音開きの左側だけを開けた中を見て戦慄する。
「なんっ」
笑っている星宇と、口の端をあげて後ろで腕を組んで立っている愁一を一回り見回したヂーフェイは、これから自分の身に何が起こるのか図りかねた。
「なんで…なんでライオンが…」
開けられたドアの中は檻になっており、その中には鬣も凛々しい雄ライオンがいた。
「こいつは|福福《フーフー》って言うんだ。俺たちが赤ん坊の頃から育てたペットだよ」
背中側から寄り添うように愁一は耳元で教えてやる。
「でも俺たち飼育方法知らなかったからさ、生肉食わせて飼育しちゃったんだよ。人が飼う時それはダメだったらしくてね、だから俺たちも撫で撫でができなくなっちまった。良いねお前は、抱き合えるよフーフーと」
その言葉で全てを理解した。
それにそのライオンはヂーフェイを見つめて檻のそばまで寄ってきていて、鼻を鳴らしてグルグル言っている。
「もう匂い嗅ぎつけたみたいだ。さっきあんたに塗ったの、メスライオンのふぇろもんとか言うやつらしいよ。獣医に貰ったんだ。調合だけどって言ってたけど。これ塗ってある限りはまあまあ食われないってさ」
星宇は軟膏の入れ物を見せて、相変わらず笑っている。
その間に愁一は、左下隅の餌を入れる檻の小さなドアを開けて
「さあ、どうぞ。素で味わう快楽の部屋へ」
ヂーフェイは愁一に縋り付いてきた。
「嫌だ!天国の部屋がいい!そっちにひて!頼むよ!そっちがいいっ」
裂かれた右頬のせいでちゃんと喋れないながらも、命がけの懇願だ。
「いやいや、フーフーはもう期待しちゃったからさあ、可哀想だろ?」
髪を掴んで引っ張り上げ、その頭を餌入れの50cm角の扉の中に押し込める。
「いやだ!いやだああ!」
檻に突っ張って抵抗をする腕を踏んづけて
「さっさと入れ」
星宇が尻を蹴り押した。
「うわあああっ」
檻に転がって入ったヂーフェイは即座に壁に張り付き、今度はライオンと2人を見比べる。
「人手なすぃ!人殺すぃ!地獄に堕ちろ!」
「言われなくてもそうなるから…心配すんな」
色々な悪態をついてくるが、その悪態を受け流している間にもフーフーはヂーフェイから香る匂いに引き寄せられ、ゆっくりと近づいてきていた。
相変わらずスンスンと鼻を鳴らし、未だ流れ出ている血の匂いも感じ取ったのか首筋を嗅いでペロリと舐め、裸の体を舐めてゆく
「いやあああっ」
「血の匂いとふぇろもんの匂い、どっちが強いんかな。その匂い消えたらやばいから、これここにおいてくね。そんなに入ってないけど使い道によっては長らえるよ。食事は係の人が持ってくるからね」
そう言って星宇はドアと檻の間に軟膏入れを置いた。
「あ、言い忘れてた。ふぇろもんっていうのは、メスがオスを誘う香りなんだってさ…フーフーはもうその香りに気付いてるみたいだよ」
「オスを誘う…って」
その間にフーフーは堪らなくなったのかヂーフェイを裏返し、腹の辺りにオスのシンボルを伸ばしてのしかかってきた。
「ひいいぃっいやだっやめろ!やめさせて!」
「あらら、フーフーはもうやる気満々だ。お邪魔なので俺らは行こう」
愁一は餌やりのドアの鍵もしっかりかけ、『じゃあな』とドアをも閉める。
その直後に、
「ヒッ!やっ…うああああっ」
という叫びが聞こえて、直後に嘔吐の声
「あ〜あ、フーフー待ちきれなかったな」
肩をすくめて星宇を見た愁一は
「お前なんて顔してんの」
とその頭を撫でてやる。
星宇は殺せなかった不満と、獣姦を見てしまったという倒錯感に、どうしたらいいかわからない顔をしていた。
「ねえ…愁一…」
潤んだ目が愁一を見てくるが、愁一は肩を抱きしめてやりながら
「俺はダメだよ星宇。早いとこ店に戻って、今日は客を取れ」
星宇も、愁一が自分を抱かない理由はわかっている。
好き勝手やれるチームを組んでいる今は、お互い同士が恋愛感情はいずれにしても体の関係もしないことが暗黙にあった。
命懸けの時に、ほんの少しでも未練がないように。お互いが自分の命だけを護るためにはそれが最重要なのだ。
それでも星宇は愁一を見上げて
「连吻都没有?」
「不行」
愁一は苦笑して星宇の背を優しく押してあげて、部屋を出ようと促した。
余談
「连吻都没有?」
「不行」
の会話ですが、これは
「キスだけでもだめ?」
「ダメだよ」
って言わせています。
筆者中国語全く分かりませんので、ネットの翻訳機能でこれでいいのかなっていうのを選んだだけなのです。
色々ニュアンスも違うので、詳しい方いらしたら是非教えてください。いつでも書き直す準備はあります!
よろしくお願いします
余談終
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