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第8話 冷静になるための術。
美月は弓道場から愛車の高級外車に乗って一目散に逃げ帰ってきてしまった。
本当なら車の運転免許が取れたばかりの満月に運転をレクチャーしながら、デレデレに甘やかしつつ帰宅したかったのだが、これ以上日向 太陽には近づきたくなかったため、こうするしかなかった。
美月は着ていたスーツのジャケットを脱ぎネクタイを外して、それらを無造作に床へ放る。
それでも今部屋着に着替えようという気持ちにはなれなかった。
別に誰か見ているわけではない、それはわかっている。
だが美月の心が少年の頃の感情に戻ってしまっている今、服を脱ぐという行為事態が怖かった。
美月はそのままパソコンに向かい、数字の並びを見て心の落ち着きを取り戻すことに集中した。
落ち着きを取り戻すのに数分かかったが、ブルーライトに照らされた美月の目が鋭くなると、小型のタブレットをセットし、それを使ってスタッフに指示を出した。
『今回の収益は少々目立ちすぎる。小口に分割して、複数のデジタルウォレットを回せ。金融当局のトラッキングに引っかかった無能は、容赦なく切り捨てて構わない』
その指示を出した頃にはいつも通りの判断が出来る北白川 美月に戻ることに成功していた。
気を抜くことが出来ない仕事だからこそ、冷静に対処することで心も落ち着けるなんて、と、美月は心の中で苦笑した。
この裏の仕事での彼の立場は常に冷静でなければならないのだ。
その仕事こそが美月が北白川組で『女狐』と呼ばれる由縁だった。
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