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第9話 指先と唇。

「ただいま戻りました」  帰宅した満月は直ぐに異変に気付く。  いつもなら美月の『おかえり』の挨拶とハグがあるのに、今日は返事すらなかった。  もしかしたらまだ帰ってきていないのだろうか、そう思いながらリビングダイニングに入ると、照明も付けず美月はパソコンに向かっている姿を見て仕事中なのに気付き、集中に自分は邪魔なのかもと素通りしようとした。  だがジャケットとネクタイが床に放ってあるのに気付き、再度美月の異変に気付いた。  美月の冷たく鋭い視線がパソコン画面に張り付いている。  いつもならもう少し余裕があるはずだ。 「……美月さん」  そこでようやく美月にとって太陽との再開に冷静さを失っていた度合いに気付き、包み込むように後ろから優しく抱きしめた。 「ただいま、美月さん」 「っ満月?!……あぁ、おかえり」  やはり美月は今まで満月が帰ってきたことに気付いていなかったようだ。  美月は満月の大きな身体に包まれて、ようやく心が温かくなったのを感じた。 「美月さんの指先が冷たいです」  パソコンのキーボードとマウスを操作していた指先は悴むような冷たさで、その指先を温めるように手を包む。 「冷たいのは指先だけじゃないんだ。お前の体温で温めてくれないか、満月」  美月は甘えるように満月の身体に身を寄せると、そのまま床に転がった。  美月の身体に全体重を乗せたとしても、満月の大きく筋張った身体は押し倒せない。  けれど今満月は美月の下に組み敷かれるように倒れている、これは美月の誘いに乗ったということだ。  照明もないのに美月の唇が艶やかに光っているように見える満月はたまらなくなり、それが自分の唇に重なっていくのを間近で眺めた。  身体は冷え切っているのに美月の唇は温かく、そして柔らかかった。

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