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第16話 逆手。

「そこまでお前が儂を耄碌ジジィだと思っているのなら、石ころかダイヤかこの儂が試してやろう。日向、今日からお前が美月の運転手を務めろ。此奴が無能な男ならお前の手足としてコキ使っても問題なかろう?便利に使ってやれ」  美月の皮肉を逆手に取ってきた美剣の眼光が鋭くなると、想定外のことを言われ美月は息を呑み込んた。  そして尚も続けて指摘し続けた。 「最近お前は自分でハンドルを握ることが増えているようだが、若頭が運転に気を取られるのは不用心というもの。儂の跡取りだということを忘れるなよ、美月」  さすが北白川組の会長、極道(ヤクザ)界のドンだと言わんばかりの言葉責めだった。  そしてその矛先は美月の裏に控えていた満月にも及んだ。 「夜霧、お前の弓道は素晴らしい。だが高校二年のときに全国制覇したとはいえ、まだ学生並みの『我流』の脆さがある。日向は社会人の全国レベルの達人だ。お前が美月の隣に立つ『盾』だと言うなら、最高の師から技を盗め。ボクシングは弓道を真に究めたその後に学べ」  確かに一理あると思った満月は、素直に返事をした。 「はい、よろしくお願いします」  そう、まさしく美剣は上に立つものに相応しい男なのだ、だから北白川組をここまでの組織になったと言えるだろう。 「美月、いいな」 「……会長の好きにしてください」  まさか自分の吐いた皮肉を逆手に取られるとは思っていなかった美月はは投げやりに返事をした。  思い通りにことが運び、美剣は満足そうに笑っていた。 「美月、儂は心底お前が可愛い。だからかお前には様々な苦難も乗り越えられる男にしたい。……こんな儂が憎かろう」 「はい、とても」  間髪入れずそうそう答える美月はいつも通りにみえる返事をしていたが、心のうちで墓穴を掘ってしまったことを悔いていた。 「仕事がありますから、俺はこれで失礼します」  美月が立つと運転手に抜擢された太陽もスッと立ち上がるが、自然な形で断った。 「日向、今日は会長の運転手をお願いします。そのほうが会長も安心ですしね」  美月は満月を従えて、応接間から立ち去った。

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