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第19話 新車、処女航海。

 新車はその日のうちに美月へと納品された。  車の鍵は二つ、そのうちの鍵の一つを美月は満月に渡した。 「満月、これはお前が持っていてほしい」  まさか新車の鍵を渡されるとは思っていなかった満月は、任されるその責任の重みを感じた。 「この車の鍵を持つなんて、そんな資格は俺にありません……。それに美月さんは運転しないんですか?」 「日向には仕事用の鍵を渡さないといけない。だからプライベートで使う鍵は満月に持っていてほしいんだ」  ようするにこの車の持ち主美月のプライベートは満月が運転するということになる。  とてもじゃないが運転初心者の自分がこんな高級車の鍵を軽々と任されるわけにはいかないと満月は思い、そのまま返そうと美月を見つめると、その彼はまた儚げな表情でこちらを見ていた。 「できるかぎりでいいんだ、俺の側にいてほしい」  早朝の時のように思い詰めているのか、美月の瞳は怯え震えているように感じたので、鍵を返すことはできなかった。  何故美月はそこまで太陽に怯えているのか、満月は二人の関係の詳細を知りたかったが、これはこの二人の問題なのだろう。  必要になったら美月から話してくれる、そう思った満月は覚悟を決め運転席に乗り込んだ。  彼が乗り込むところを見て安心した美月は助手席に乗りドアを閉めた。 「今日からプライベートでのあなたの専用運転手はこの俺です。美月さん、どこに行きたいですか?」  はにかんで笑う満月を見た美月は、カーナビに行き先を入力しセットした。 「ここ」  その行き先は満月と美月が初めて情を交わした、人気の無い公園だった。  またあのときと同じように美月はカーセックスを希望していることに気付いた満月は、照れを隠せなかった。  そんな彼を見た美月は続けて言った。 「この車での初めての思い出は、満月と作りたい」  微笑する美月を見て覚悟を決めた満月は、震える指先で重厚なスタートボタンを押し込んだ。  低く、野性味のあるエンジン音が静かな車内に響き渡る。  それは新しい二人の時間の幕開けを告げる鼓動のようだった 「了解しました、安全運転で目的地に向かいます!!」  発進した車の乗り心地は、まるで満月に優しく抱きしめられているくらいの心地よいものだった。

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