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第25話 不躾な視線。
「それでは夜霧くん、仕事上がりに弓道場で」
「はい、夕方からどうぞよろしくお願いします」
早速満月は太陽からの弓道の指導を行う予定らしかった。
自分だけではなく満月までとばっちりを受けてしまったことが、美月はどうしても許せなかった。
「美月さん、行ってきます」
はにかんだ笑顔を向けながら美月に手を振る満月は素直で純粋で本当に癒される、と美月は反射的に微笑んだ。
「気を付けろよ、満月」
だが助手席のドアが閉まると、美月には耐え難い空間になってしまった車内だった。
美月はタブレットを開きながら、太陽に表向きで経営している会社へ向かうように指示をした。
たとえ居辛い空間でも、美剣が飽きるまではこの生活に慣れなければならない、美月はタブレットの画面に集中しながら脚を組み替えた。
途端に幼少の頃常に感じていた値踏みしながらも視姦されているような、不躾な視線が自分に向けられている錯覚に陥り、居辛くて再度足を組み替える。
『トットットッ』、と、何かをカウントするようなリズムを刻む音がエンジン音に混ざり聞こえてきた。
「……」
そのリズムを刻む音は、まるで何かに追い詰められているような、そんな雰囲気になる。
それでも美月は集中するため首筋を擽る長い髪を耳に掛け首を傾げながらタブレットに向かう。
しかしその無遠慮で不躾な視線は寧ろ酷くなる一方だった。
こんな奴のために溜息を吐く労力すら惜しい、そう思いながら美月はタブレットから目を離さず、氷のように冷たい声で指摘した。
「日向。お前からのその視線、さっきから不快だ。だが、それを指摘するために溜息を吐くことさえ今の俺には時間の無駄に思える」
太陽はバックミラー越しに、愉悦に満ちた目を細め笑顔で謝罪した。
「これは失礼いたしました。ですが、その首筋の夜霧君が残した『印』があまりに雄弁なもので。つい、昨夜のあなたの啼き声を想像してしまいました」
太陽は謝罪しているにも関わらず、その気持を感じさせない言い方をしてくる。
そんな太陽に美月はまた溜息を吐きたくなってきた。
美月が何か言ったところで、太陽を更に喜ばすことになるのを承知で、警告の意味で注意をした。
「そんな想像してどうなる。お前がどれだけ俺の肌を視線で汚そうと努力しても、俺に届くのはただの『雑音 』だ。運転手の分際で、主人のプライベートを値踏みできると思うな」
そう一喝した美月は『空気が淀んだ。換気しろ』と命令し、窓を空けさせた。
初日の早朝から太陽にこんなにも気分を概されたことに静かな怒りを感じつつも、美月は気疲れを冷たい空気で身を引き締めるのだった。
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