26 / 36
第26話 ウォーターサーバー。
『日向 太陽』が美月の専属運転手としての初日を迎えた今日は散々な結果になった。
美月に注がれる無遠慮な視線もさることながら、会社の副専務から『社長は良い運転手を見つけてこられましたね』と言われて、さすがに美剣が無理矢理自分に付けた運転手だと言えなくて、そのまま濁すしかなかった。
あまり会社に気の利かなかった元運転手田中 亮司 と比べているのだろう。
確かに不器用で無骨な田中だったが、忠誠心が強く情に脆い彼の良さは、この社会には理解されないだろう。
しかしそんな田中が美月にとって大事な存在だった。
そんな彼は今、美月のために殺人という罪を犯し府中の牢獄にいる。
「美月様、お疲れ様でした。明日もまた08:00に駐車場でお待ちしております」
やっと解放された美月はマンションにでようやく息を吐けた。
満月のために買ったウォーターサーバーのミネラルウォーターをコップに注ぎ、飲み干してソファーに座ると、美月はネクタイを緩める。
冷たいミネラルウォーターを簡単に出せるウォーターサーバーの存在は今の美月にも有難かった。
「はぁ、……満月に癒やされたい」
昨晩ベントレー車内での満月の雄々しさと、それから今日の朝の純粋なはにかむ笑顔と、両方思い出した美月の心はそれだけでも少し癒されていた。
それからパソコンをセットすると、数字がずらっと並ぶ画面を見てからタブレットで指示を出した。
『このアカウントのIPを洗え。SNSの裏垢から家族構成、勤務先の負債状況までだ。勝ち逃げは許さない。向こう一週間のオッズをプログラムで細工し、全財産を吐き出させろ。人生の詰む音が、画面越しに聞こえてくるまで徹底的にやれ』
太陽に情報を握られている美月が、ネット上での相手の『逃げ場』を無くし、デジタルの網で奪う皮肉なやり方だった。
現状美月には逃げ場がない、故にここでも逃げ場を失くし金を根こそぎ奪う、そんな美月のやり方を満月が知ったら、彼は悲しむだろうか。
それとも美月を軽蔑するか……。
「……行くか」
意を決して美月はカジュアルな服に着替え、マンションをあとにした。
ともだちにシェアしよう!

