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第28話 合わせ鏡。

「美月さん、……どうしてここに?」  美月はカジュアルな装いのまま道場に上がり、満月の矢と弓を借り、軽く精神統一をしてから、打起し、引分け、離れの一連の所作を見せた。  弓道着を着ていなくてもわかる、その美しい所作は太陽と合わせ鏡で映しているかのようだった。 「何故俺のフォームをそのまま映している。日向、お前何処で俺の弓道を見た?」  そう尋ねる美月に太陽は目を輝かせて喜んでいた。 「やっとあなたのフォームを間近で見ることができた。俺はずっと北白川を見ていた」  太陽は美月の正面に来ると、手を取り握った。 「俺はあの中学で揶揄ってしまったときから、ずっとあなただけを見ていました」  日向 太陽は中学の性授業で戸惑う美月を見てずっと気になりだしていた。  そのずっと見ていた原因の正体に気付いたのは、違う高校に進学し、偶然太陽が美月が出場している弓道大会で見掛けたときのことだった。 「高校一年のときに偶然弓道をしている北白川を見た。弓道着姿のあなた、そして流れるような動作、神聖で美しい北白川がその当時苦悩していることも知った。……支えたい、いや俺が支えようと考えた」  美月は高校は有名な名門の私立、偏差値も高く特に理数系が得意ではないと編入すら厳しかった。  そんな高校で美月は弓道部に在籍していたものの、彼は極道一家の長男ということを伏せつつ学校に通い、見た目の良さから嫉妬心を駆られた弓道部部員から集団リンチという名の集団強姦という快楽地獄を受けていた。  そのことを太陽は何らかの形で知ったのだろう。 「俺は北白川を守るために必死で勉強して、弓道も始めた。……けれど俺は編入試験に受かることができなかった。それでもいつかあなたの隣に俺の存在が必要になることを信じ、一生数字データを勉強しながら、そして弓道も両立させようと頑張っていた。北白川のために」  理数系ではなかった『日向 太陽』は『北白川 美月』の隣に存在したいがために勉学に勤しんだのだ。 「北白川を支えるのはこの俺です。俺があなたを守ってあげます」  なんて傲慢な言い方なのだろうか、美月はその言い方に吐き気を感じ太陽の手を振り払った。 「俺に触るな。……お前が俺の何を理解しているって言うんだ」  性授業のあと太陽から揶揄われた美月がどんなに惨めさを感じたか、プライドを傷付けられたか、揶揄った太陽は知らないのだ。  手を振り払われても傷つくどころか、太陽はその手の感触を慈しむように見つめ、恍惚とした表情を浮かべた。 「その拒絶すら、あの日見たあなたの『気高さ』そのままだ。やはり俺が支えなければ、あなたは壊れてしまうに違いない」  今の太陽に何を言っても通じないのだろう、そう思った美月は満月の腕を取る。 「満月、帰るぞ。支度をしろ」  美月はそれだけ言い、満月と共に弓道場をあとにした。

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