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第29話 打ち明けた過去。
満月は帰る身支度をしながら考えていた。
太陽は美月を崇拝し、そして執着している理由を。
美月と太陽には過去に喧嘩をしたような溝があることに気付いていながらも、満月はその原因までは知らない。
けれど太陽の弓道のフォームは美月の模倣であることを知り、原因を知りたくなったのだ。
美月が話してくれるのを待とうと思っていたが、その美月の過去を汚す道具にされかけていた自分は知る権利があるのではないか、と、満月は考えていた。
身支度を整えて美月が待つ外に出ると、何処か哀しそうな姿をしていて胸が痛んだ。
「……美月さん」
満月の姿を見付けた美月は苦笑を浮かべる。
「帰るぞ、満月」
その苦しそうな美月に満月は言った。
「美月さんはどうして一人で何もかもを背負い込もうとするんですか?俺はあなたの背負っている苦しさを分かち合える、そんな恋人じゃないんですか?」
満月は思っていたことを美月に正直にぶつけた。
「俺じゃ力不足ですか?」
「力不足じゃない!!……お前は俺の汚れを知らないから」
そう、満月はことあるごとに美月に向かって『綺麗』という言葉を口にする、だからこそ過去のことが話せなかった。
「俺は美月さんの盾になりたいです。あなたを俺に守らせてください」
純粋な満月の想いに負けた美月は、駅に向かいながら過去の自分の話をした。
小学生の頃教員に受けた性行為の事件、実父が殺されたときのこと、中学で性授業の後に太陽から揶揄われたときのこと、義父で元組長大樹に襲われどうしようもなく快感に弱くなってしまった自分の身体のこと、そして高校で集団強姦を受け快楽地獄をこの身に受けていたことを。
「極道 一家の長男だと隠していた高校一年の大会に一度だけ出場したことがあった。そのときに日向は偶然俺の弓道を見たらしい。そのときにたまたま俺が強姦されていた姿も見たんだろう。あいつのあの視線はただの憧れだけじゃない、俺が汚され無様に喘いでいた姿を知っている者の『優越感』と『執着』が混ざった眼差しだ」
だから美月に向けられる視線もあんなに不躾だったのだ。
まるで言い訳のようだ、と、美月は話しながら思った。
満月は黙って聞いていた。
美月の過去に自分が何を言っても慰めになってしまう、そう思って黙って聞いていた。
「……何か言えよ、満月。可哀想とか、何かあんだろうが」
茶化すように空元気に言う美月に満月は掛けた言葉は、慰めではなかった。
歩きながら美月の少し前を歩いて影を作る。
「たとえ何万本の矢が降ってきても、俺が全部弾き返します。美月さんにはもう一突きだって痛い思いはさせません。……これからは俺があなたの盾になります。俺に守らせてください」
満月は思っていた気持ちの全部を美月に伝えた。
すると美月は今夜空に浮かぶ美しい月よりも綺麗な微笑みで返した。
「よろしく頼むわ」
満月が俺と出会ってくれてよかった、と、美月は心の底から思った瞬間だった。
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