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第30話 鋼のメンタル。

「おはようございます、美月様」  早朝08:00、太陽は何事もなかったかのようにマンション地下駐車場で美月とそして満月を出迎えた。  さすが陽キャ『日向 太陽』のメンタルは鋼のように強かった。  それについて満月は少々やり難いなと内心で困っていたが、美月は太陽のこの態度は想定内だった。 「おはようございます、夜霧君」 「……おはようございます、日向さん」  昨日のように満月は助手席に乗車し、美月は当たり前のように後部座席に座った。  発進した車のフロントガラスを不規則に叩く雨音が車内の重苦しい沈黙を強調していた。  美月の眉間の皺が、ワイパーの動きに合わせて深くなっていく。 「今日はあいにくの天気ですね。夜霧君は傘をお持ちですか?」  太陽は美月ではなく満月に話を振ってきて、それについては自然に答えを返した。 「はい、折りたたみ傘を鞄に入れています」 「それはよかったです」  満月と他愛ない会話を交わしながら、太陽の視線はバックミラーに映る美月の美しく形のよい唇に向けられていた。  そんな視線に気付いた美月は気分が悪くなり、形のよい脚を組み替えた。 「満月、今日終わるの何時だ。迎えに来てやる」  大学が終わったら一緒にいてほしい、と、美月は思っていたのだが、それに横入りしてきたのは太陽だった。 「今日の仕事終わりに美月様と話がしたいという方からの言伝を預かっていますが、どうされますか」  信号待ちで車を止めた太陽が差し出したメモをハンカチ越しで受け取った美月の表情が険しくなった。  その表情を確認した満月は、その美月の申し出を断った。 「大学の帰りにボクシングジムに顔を出す予定なので、迎えは不要です」 「……そうか」  自分が差し出したメモによって、その美しい唇が苦々しく歪む瞬間を、太陽は一秒も漏らさず堪能していた。  そのメモを見てから美月の機嫌は更に悪くなっているのに気付いた満月は何かあったのだろうかと思いもしたが、太陽がいる手前余計なことを言ってしまいそうだったので、黙っていることにした。  後でメールで美月に聞こう、と。  満月の通う大学の近くで車は停めると、美月は微笑みながら言った。 「頑張って勉強してこい、満月」  ようやく美月の穏やかな表情が見れた満月は嬉しくなって、はにかむ笑顔で答えた。 「はい、行ってきます」

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