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第31話 過去の『光』。
「北白川君、お久しぶり!!元気だった?」
彼女に指定された場所に美月は訪ねた。
そこは母校の大学近くのカフェだった。
「立花さん、お久しぶり」
「うわぁ~、北白川君は全然変わってないね」
彼女は美月が大学時代に初恋をした女性、立花 理佐 だった。
『北白川君って、怒ると顔に出るし、楽しいと笑う。みんながいうよりも、案外普通の人だよね』
彼女が放った言葉に美月はどれだけ救われたかを思うと、十年は経った今でも胸が熱くなる。
それでも当時の美月は理佐の言葉に『この子は俺の背後にある血の匂いも、この容姿が招く狂気も知らないのだ』、と、絶望も感じていたのだが。
『君は俺を『普通』だと思う?』
『変なことを聞くんだね。うん、北白川君は普通だよ』
美月を極道一家の長男と知っても『普通』として扱ってくれた理佐に恋心を抱いていた。
けれど美月は理佐に好きだと告白はしなかった。
普通ではない家に生まれた極道の美月がそばにいることで、理佐の普通を壊してしまうと思ったからだった。
「まさか立花さんが俺に会いに来るとは思ってなかったよ。どうしてあの男が専属の運転手だと知ったのか、理由を聞いてもいいかな?」
初恋の相手だとしても美月は気が抜けなかった。
IT企業の経営者として、そして北白川組の跡取りとして命を狙う輩もいるだろう。
美月の裏の顔を知った輩もいるかもしれない。
「私の今勤めてる会社の近くで北白川君を見掛けたんだ。それで一緒にいたその運転手さんに声を掛けてみたら、雇われてるって言うんだもん。思わずメモ書いて渡しちゃった」
理佐も変わっていない、今も『普通』の女性だった。
昔と変わらず屈託のない笑顔を見ながら、美月は懐かしさを感じた。
だから美月は、彼女のその指先がわずかに震えていることに気付けなかった。
「……迷惑だった?」
「どうかな」
「もぅ、北白川君意地悪だ〜!!」
それでも異常な執着心を美月に向ける太陽に理佐が声をかけているのだ、気など抜けなかった。
「実は私そこのプリンスホテルのアフタヌーンティーフェアーに二人席で予約してるんだ。……でも誘ってた友達が急に来れなくなっちゃって。もしよかったら北白川君、一緒に行ってくれない?」
まさか初恋の相手にアフタヌーンティーに誘われるなんて思っていなかった美月は少し考えた。
「……」
「二人席を一人で行くのは嫌だなって。でも北白川君が行けないなら、また次回に誰かと予約し直すよ」
確かそのプリンスホテルのアフタヌーンティーフェアーは有名で、毎年開催しているが期間は短かったはずだ。
期間内の予約はきっとできないだろう。
「あぁ、……立花さんには敵わないな」
美月は苦笑すると頷いた。
「ありがとう!!北白川君、持つべきものは友達だ」
美月は太陽にプリンスホテルの地下駐車場で待つように指示して、初恋の相手とデートをすることになってしまった。
満月には事の事情を説明をするメールを送った。
そして最後に『持つべきものは友達だと言われた。浮気じゃない、俺にそんな甲斐性はないから安心してほしい』と付け足した。
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