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第33話 苦い初恋の味。
ラウンジで倒れた美月の側にいた理佐は泣きながら、『この人の専属運転手さんが地下駐車場にいるので呼んできます』、と、ホテルマンに伝えているのを聞いた。
催淫剤を盛られ気が遠くなる美月は、このまま気を失ってしまったら太陽の思う壺だと必死に身体を襲う熱に抵抗した。
美月の身体を支えてくれているホテルマンの手にすらビクリビクリと反応してしまう自分の快感の弱さに嫌気が差した。
「……っあ」
身体に力を入れるだけで、あられもない淫れた声が漏れそうになり必死に耐えながら、逃げる術を考えた。
この状況を作り上げた太陽はきっと嬉々として美月の身体を介抱するに違いない。
ならば太陽以外の男に介抱させればいい、と、そう思った美月は身体を支えるホテルマンの耳元で囁いた。
「一部屋、……頼む。俺を介抱してくれ」
縋りながら見つめる美月の瞳は熱で潤んでいて、普段からあるが、更に艷やかな色気を放っていた。
するとそのホテルマンは心配する表情から、一瞬にして顔を赤らめた。
彼はどうやら状況を察してくれたようだった。
しかし、彼はホテルマンとして真面目な性格だったらしく、よい返事をくれることはなかった。
「お客様の要望でも、こればかりはできません」
その拒絶は、美月にとって死刑宣告に等しく思えた。
差し伸べた手が虚空を掴み、意識の暗転と同時に、地下で待ち構えている『蛇』の冷たい笑みが脳裏をよぎった。
それと同時に、身体の熱と疼きが身体を駆け巡り、耐えれる度を超えた美月は気を失いかけ、薄れゆく意識の淵で、美月は雨の日の満月の温もりを思い出していた。
『ごめん、満月……』、と、届くはずのない言葉は、薬の熱に溶けて消えた。
一方で太陽は地下駐車場で鼻歌を歌いながら理佐からの報告を待っていた。
片手でハンドルを持ちながら指先で『トットットッ……』、と、弾きながら一定のリズムを刻んでいる。
一定のリズムを刻む指先は、まるで美月を外側からコントロールしているかのようだった。
すると太陽のスマートフォンが鳴り、車内にその着信音が響く。
着信音はショパンのノクターンだった。
通話相手は嗚咽しながら泣いている様子だ。
『っ……、言う通りにした。これで借金、は、うっ……帳消しよね……?』
「ええ、ありがとうございます。立花さん、これであなたはもう用済みです。さようなら、お元気で」
太陽はスマートフォンをジャケットの内ポケットに仕舞うと、地下駐車場をあとにした。
「どうやら初恋の味は苦かったようですね、北白川」
その太陽の声色は嬉々としていた。
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