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第36話 そうさせる原因。

 満月は先程美月に送ったメールを確認した。  美月は満月からのこのメールを確認していないのだろうか、それとも見て見ぬふりをしたのか。  『今、美月さんが俺を呼んだような気がしたのでメールしました。何かあったら、いつでもメールしてください。』  『美月の守護者(ガーディアン)』としての直感を感じ胸騒ぎがした満月は、ボクシングジムからメールしたのだ。  その直感は当たっていたのだろう、キングサイズのダブルベッドで眠る美月の姿はパジャマを着ていた。  普段は無防備にバスローブで寝る美月が、パジャマのボタンを一番上まできっちりと閉めて眠るはずがない。  ふと満月の視線は少し捲れた袖元にいく。  両手首が赤黒い痣ができていた。  昨日はこんな痣はなかったはずだし、満月が美月を抱いたときにつく跡でもない。  まるで両手首を何かで縛られた跡のようだった。  いや、これは紐状のもので縛られた跡だ。  『そう、例えばネクタイで縛られたらこうなるだろう……』、と、満月は思った。  美月の顔をよく見ると、目のまわりと頬も赤く腫れていることに気付いた。 「……涙が伝った跡?」  満月は寝室の空気と同じ温度と同じくらいの声色で呟いた。  そして、帰ってきた美月のテノール調の声は掠れていたことを思い出す。  今思えばその掠れたその具合は、どれだけの悲鳴をあげたらそうなるのだろうか、と、思うくらいだった。  両手首の縛られた跡と泣き腫らした目、パジャマのボタンを一番上まで閉め、……掠れた声。  美月をそうさせる原因に気付いた満月は、ここには居ない相手『日向 太陽』に殺気を向けた。  一瞬にして満月のまわりの温度が下がる。  元組長北白川 大樹と若頭北白川 美月の跡目争いの抗争の最中、向かってくるものを全て倒し尽くす『北白川の猛戦士(パーサーカー)』は、もはや伝説の域に達していた。  その伝説化している猛戦士(パーサーカー)は若頭美月の義弟の夜霧 満月のことだった。  普段の満月とは違う殺気に満ちた目をした彼は、まるで別人のようだった。  満月は想像の中の太陽をサンドバッグにし、どうにか今の心を落ち着かせた。  『……俺が今できることは、美月さんを落ち着かせることだ』、と、満月は美月に背を向けるように、ベッドに入り就寝した。 本当は抱きしめて眠りたい、けれど今の美月に触れることは彼を追い詰めることになる、と、判断して距離を置く。  その満月の指先は、美月に触れることのできないもどかしさで震えていた。

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