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第37話 ホットミルク。
いつもより少し早めに目が覚めた美月は、冷たくなったベッドから起き上がる。
パジャマは乱れているところもなく、就寝したときのままだった。
満月には気付かれなかっただろうか、美月の頭の中はそればかり気になっていた。
そのまま洗面所で顔を洗い、多くあるスーツの中からリボンタイのものに着替えてからリビングダイニングのドアを開けた。
「おはようございます、美月さん」
満月の声が聞こえて、無意識に肩が跳ねる。
彼を裏切ったという罪悪感か、それとも彼の優しさに触れれば今の虚勢が崩れてしまうという予感からか、美月の指先は微かに震えていた。
そしていつもならこの時間帯の満月はランニングに行っている時間のはずだった。
美月は満月の目を見ずに聞いた。
「おはよう。満月、……ランニングはどうした?」
「今日早く目が覚めて、いつもより早めに終わってしまったんです。牛乳を温めてホットミルクにしたんですけど、美月さんのぶんもありますよ。どうぞ」
満月は手渡しではなく美月のテーブルの前にマグカップを置いた。
直接手渡ししてこなかった満月に心の中でホッとした美月は、置かれたマグカップを見る。
「……ありがと」
美月は椅子に座りながら感謝を述べると、満月は微笑みながら返事をした。
「はい」
普段なら朝珈琲を飲むのが美月の一日の始まりなのだが、今は安心できそうなホットミルクが有難かった。
そのホットミルクの温かさは満月の優しさのようで、安心できそうだと美月は思った。
白い湯気の向こう側で、満月がいつもと変わらない笑みを浮かべている。
その優しさが眩しすぎて、美月は逃げるように温かいミルクを口に含んだ。
「美味しい……」
美月はポツリと呟くと満月は満面の笑みを浮かべた。
「少し蜂蜜を入れてみたんです。ちょっと加えただけなのに、更に優しい味になりますよね」
いつもの優しい満月が、今日はいつになく甘やかしてくれている気がして、どう接したらいいかと悩んでいた美月の気持ちが少々軽くなっていた。
美月の中を支配していた『不快な匂い』から、ホットミルクと蜂蜜の『甘く優しい香り』に満ち始めていた。
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