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第38話 強い決意。
「おはようございます、美月様」
よくもまあ、何事もなかったかのように太陽はいれるものだなと満月は思った。
満月は一瞬太陽を殴り殺そうと殺気を放ったが、情緒不安定の美月の前でそんなことは出来ないと思い直し、表面上の体裁を装った。
後部座席に乗車した美月を確認してから、満月はいつも通り助手席に乗った。
「おはようございます、夜霧君」
いつになく上機嫌の太陽に吐き気を感じながらも、態度に出さず穏やかに笑顔で満月は返事をした。
「おはようございます、日向さん」
太陽はいつも通りの満月の態度に、満面の笑みになった。
きっと必死に美月は太陽とのことを隠し通しているのだろう、と、微笑ましくなり、そんな企みを含んだ笑顔なのだと感じた満月は、本当に殺すと思うくらいに憎んだ。
穏やかに進むフライングスパー車内で美月の表情は曇っていた。
今日も太陽はバックミラーで美月に不躾な視線をおくっていても、その彼は窓から流れる風景を無表情で眺め見ているだけだった。
「夜霧君、夜弓道場を借りているのですが。今夜いかがですか?」
「はい、また教えてください」
満月が断ったら、太陽はきっと美月を弓道場で襲うのだろう。
『弓を引く私の背中を、後部座席で震える彼に見せつけてやる……』、と、言っているようでもあった。
太陽の誘いにはそんな傲慢な独占欲が透けて見え、太陽の思考は本当に恐ろしい、と、思った。
「そういえば、町屋さんが美月さんに話がしたいと連絡がありました。今日このあと本邸の御屋敷行ってもらえますか?」
美月と太陽を少しでも二人きりにしないため、満月は会長 の元秘書の町屋にお願いをしたのだ。
勿論町屋に美月の事情は説明していない。
けれど町屋は満月を信頼していたし、満月は町屋を尊敬している、何も話してはいないが、満月の頼みならと町屋は今朝電話で了承してくれたのだ。
そして町屋は『日向 太陽』の存在を知っているらしかった。
満月が町屋から聞いた話では、二年前に起きた大樹と美月の抗争前から美剣は太陽を雑居ビルの片隅で隠しながら育てていたという事実を聞いたのだ。
全て美剣が企てていたことならば、太陽が美月の全てを知っていてもおかしくはないし、辻褄が合うのだ。
『日向 太陽という人物には気を付けてください。奴はデータに感情を乗せない怪物です』、と、早朝に言われた満月は、もう少し早く町屋に連絡しておけばと悔やんだ。
町屋の声はかつてないほど低く警戒心に満ち、その言葉を聞いたとたん、満月の耳の奥で警鐘が鳴り響く。
「美月さん、行ってきます」
大学近くで車をおりた満月に美月は何も言わなかったが、穏やかな微笑みを浮かべていた。
『美月さん、俺はあなたを守ります。何万本の矢が振ってきても、俺は全てを弾き返しますから!!』、と、満月は去りゆくフライングスパーの排気音を背に拳を強く握り決意した。
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