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第39話 スパーリング。

 満月は今日大学に行くつもりはなかった。  ずっと真面目に通っていたため、現在の1月下旬時点で単位は全科目取れていた。  満月は行き先をボクシングジムに変え、早歩きで向かった。  ボクシングジムに着くと身支度を整える。  美月を守るための盾として少しでも強くなるために、そして太陽への憂さ晴らしのために、満月はサンドバッグを相手にスパーリングをはじめた。  彼の目は凶器のような殺気に満ちていて、練習に来ていたボクシング経験者の者達すら、その姿を見て圧倒されていた。  たとえ満月はボクシングを学んでいても試合には出ることはなかった。  ボクシングの講師に何度も『試合に出ろ!!』と熱望されても、満月は『はい』、と、返事をすることはない。  選手になってしまえば、暴力団北白川組には居られないのだ。  そして満月のその原動力は『北白川 美月』だ。  ボクシングは美月の側にいるために学んでいるし、美月を守る盾になるため以外の理由はない。  しかし、美月を守る盾になりたいと願いながらも、その拳は誰かを粉砕せんばかりの破壊力を宿していた。  今は頼りにならない子供だと満月は自身をそう思っている。  一番認めてもらいたい人から、まだ自分は子供扱いされているのが現状なのだ。  どうしようもない熱は満月の中で沸々と沸き上がり、けれど駄々っ子のように拳を簡単に振り下ろしてはならない。  振り下ろしてしまったら、それこそ子供のすることなのだ。  早く美月に頼られる大人にならなければ、自分は一人前ではない、と、言い聞かせながら更に己を追い詰めていく。  満月は焦っていた。  もし自分よりも頼り甲斐のある相手が現れたら、美月の恋人の座、そして将来隣で支える権利を奪われるかもしれない、そう思うと焦らずには居られなかった。  そして美月はあんなにも太陽を嫌悪していたのに、今朝の車内で不躾な視線を送られているにも関わらず、無表情で窓の外を見ているだけなのだ。  『あの人は耐えているのか、それとも心が死んでしまったのか』、と、満月は思った。  たとえ美月の心が今死んでいても、生き返らせればいいだけのこと。  『今俺が支えられなければ、今後美月さんの隣にいる資格なんてない』、と、自分に言い聞かせながらスパーリングを終わらせると、ジムのシャワーで汗を流してから、満月は今度はマンションに戻り、弓道具を持ち太陽が借りている弓道場ではない、違う弓道場に向かった。  太陽に教えを請うだけでは上達はしないと判断した満月は、空いている弓道場を探し技を更に磨きをかけるつもりなのだ。

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