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第40話 一筋の涙。

 北白川組の本邸に美月の車が到着すると、組員達が出迎えた。 「美月さん、お待ちしていました」  町屋すら美月を出迎えているのだ、余程のことがあったのだろう、と、美月は内心で身構えた。 「町屋さん、何かあったのか?」  現在自分のことで精一杯、というよりも太陽のことだけでも手に負えない状況なのだ。 「事情は中でお話します」  太陽も美月の後に続こうとすると、町屋は制した。 「あなたは組と盃は交わしていないはずです、日向 太陽(ヒナタ タイヨウ)さん。いくら美剣会長とご縁があったとしても、あなたは本邸(ココ)に入る権利はありません」  北白川組本邸は正式に盃を交わした北白川組組員(ヤクザモノ)、そして幹部が招いた客以外は出入りを禁止していた。 「日向、お前は車で待機していろ」  美剣に気に入られているかもしれないが、太陽は。  美月は太陽にそう伝えると、不服だが従う以外の選択肢はないのだ。 「御意」  町屋の後に続いて本邸に入っていく美月を太陽は見送った。 「町屋さん、調子はどう?」 「美月さんは心配性ですね。至って健康体ですから、安心されてください」  町屋は二年前の抗争で腹部を狙撃銃で撃たれ倒れたが、命は運よく助かり今現在は本邸と別邸の連絡係を任されていた。  ようするに幹部組員としての前線を退いたのだ。  美月を応接間に通すと、町屋は人払いをしてから内側から鍵をかけた。  随分と厳重だ、余程聞かれたら困る事態になっているのだろう、と、美月は思った。 「何があったのか、聞くのが怖いなぁー」  美月はいつも通りのあっけらかんとした調子で話す。 「私からの要件は何もないです」  町屋は美月の正面に座るとそう言った。 「何もないって……?」 「ええ。しいて言えば、満月くんに頼まれました。美月さんと『日向 太陽』を出来るだけ二人きりにしないでほしい、と」  その言葉でハッと美月は我に返った。 「……あいつ」  『満月は自分と日向の間に何があったか気付いていたのか……』、と、顔を歪ませた。  だから今朝あんなにも自分を甘やかしてくれていたのか、と、今更気付いた。  いや、甘やかしてくれていたのではない、美月を思って気遣い優しくしてくれたのだ。  太陽に抱かれ淫らに善がった自分を軽蔑するどころか、わかった上での行動だったことに、切なさを感じていた。  最初から素直に満月に話していれば、嘘などつかずに済んだのだ、美月は後悔をした。 「あなたは一人で戦っているのではない。満月君はあなたの絶望に気づいた上で、それでもあなたを守りたいんでしょうね」  町屋は美月の隣に座り直し、子供を優しく慰めるように軽く抱きしめた。  美月はある意味で町屋に育てられたようなもので、いつもピンチに陥ると手を差し伸べてくれた。  彼にとって町屋は親のような存在なのだ。 「満月君はあなたの過去を憐れんでいるのではありません。あなたの現在を奪おうとする者に、ただ腹を立てているんです。美月さん、あなたはもう一人で泥を被らなければならなかった子供ではありませんよね」  そう、薄幸だった少年は、今は大人で『夜霧 満月』という『光』と出会い、幸せを知ったのだ。  もう自分は憐れまれるような子供ではない、立派な『北白川 美月』という大人なのだ。  それに気付いた美月は苦笑と、そして頬を一筋の涙が伝っていた。

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