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第41話 ハリボテの外見。

 太陽が待つフライングスパーに戻ってきた美月の気持ちに迷いは無かった。  『今の自分は太陽に揶揄われた薄幸の少年ではなく、寄り添い支えてくれる大切な人がいてくれる大人の北白川 美月だ』、と、その気持ちで戻ったのだ。 「美月様、おかえりなさいませ」  スマートに出迎える太陽にはどこかしらの威圧感を感じるものの、美月は無視をして車に乗り込んだ。  先程の怯えきっていた美月ではないことに気付いた太陽は、それでも諦めることはなかった。  運転席に乗り込みエンジンをかける。  行き先を聞こうとバックミラー越しに視線を上げる太陽に美月は告げた。 「そろそろお前が弓道場を借りている時間だろ。このまま迎え」 「かしこまりました」  そのまま太陽はバックミラーで美月に不躾な視線を送り始めてくる。  太陽のその視線は、服の上からでも肌を直接撫で回すような、ねっとりとした温度を持つ、そんな視線だった。  先程までの美月ならば、怯えながら視線を伏せるだけだっただろう。  しかし今は満月の優しさと気遣い、そして町屋も支えてくれていることに気付いた美月は、その視線に抵抗した。 「……いつにも増して不躾な視線だな。自分の主人をそんな目で見ていいと思っているのか?」  太陽は内心で今まで積み上げてきた行動が崩れ落ち掛けたかと、思いながらも美月の指先に視線を下ろすと、そこは震えていた。  太陽のその視線の先が震えていたことに気付いた美月は、隠すように手を握る。 「申し訳ございません、美月様」  企むような含み笑いを浮かべながら言う太陽は、まるで小動物(エモノ)を見て笑っている野獣のようだった。  美月は思う、『心は自由になろうとしているのに、身体はまだあの夜の鎖に繋がれたままだ』、と、いう現実に絶望を感じる。  そのとき、脳裏に浮かぶのは満月の真っ直ぐな瞳、そして今朝一緒に飲んだ蜂蜜入りのホットミルクの香りだった。  『満月に今の自分を見せたくない。あの子の隣に立つ俺は、もっと強く、気高くありたい』、という美月のプライドは己を強くしてくれる気になり、背筋を伸ばし脚を組み直す。  その姿はいつも通りの眉目秀麗、容姿端麗、プライドと計算高い『北白川 美月』に見えた。  しかし今のそれはハリボテの外見でしかなかった。  内心では重油のように重く、呼吸をするだけで肺が汚れていくような感覚に陥りながらも、美月は必死でその空気に耐えていた。  美月のそのハリボテの外見を知りながらも『……俺の計算では測れない、何かがあったのですね』、と、太陽は内心で多少の焦りを感じていた。  ハンドルを『トットットッ……』と弾く太陽の指先、その単調なリズムが、美月の耳には自分を追い詰めてくる足音のように聞こえた。

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