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第42話 潤み輝く瞳。
フライングスパーが弓道場に到着すると、そこには既に弓道着姿の満月があった。
「お疲れ様です、日向さん。今日もよろしくお願いします」
満月ははにかむ笑顔で太陽に一礼をした。
その笑顔の奥で、どう首筋を絞めてやろうと計算しているとは、太陽は微塵も思わないだろう。
人を疑わなさそうな屈託のない満月を見た太陽は、『やはりこの子供は自分と美月の間にあったことは気付いていないのだろう、でなければこんな笑顔を俺に向けるわけがない』、と、人に良さそうな笑顔で応えた。
「こちらこそよろしくお願いします、夜霧君」
その太陽は更衣室に向かっていくときに、満月は美月に声を掛けた。
「美月さんも、お疲れ様です」
美月は思う。
いつもと変わらない満月だが、この子は美月と太陽の間のことに気付いているのだ。
嘘をつかなければ良かった、と、そのことを美月は満月に謝罪した。
「ごめん。……満月」
謝罪と同時に思った、美月を優しく慰めてくれた満月だが、実際は許してくれないかもしれない。
「わかってます。美月さんは悪くないことくらい」
満月の表情が一瞬、猛獣が牙を剥くような鋭いものに変わった。
それに美月は気づき、息を呑む。
「俺はあなたを傷つけた日向太陽が、心の底から許せないです」
それは、かつて『北白川組の猛戦士 』として敵を恐怖させた男の顔だった。
そして『猛戦士』として恐れられた夜霧 満月の表情が表に出たことにより、彼が相当太陽を憎んでいることに気付けた。
「守りきれなくて、ごめんなさい」
二年前の抗争では圧倒的な暴力を見せ付けたことで相手は満月を恐れたが、知的な策略家日向 太陽に暴力は通じないことを美月は肌を通して知っている。
「満月、……俺はお前に守ってもらえるほど気高く綺麗な人間じゃない」
自分を純粋に好きだと慕ってくれる満月こそが気高く綺麗な人間だと思った美月は、そんな彼の思いに応えられない人間だと思った。
しかし満月は美月の放った言葉は想定内の範疇だった。
「美月さんを守りたいと思う理由は、気高くて綺麗な人だと思う前に、俺の愛する人だからです。それ以外の理由なんてありません」
『愛する相手』、と、満月はそうはっきりと言い切っていた。
美月はそんな彼が愛しくて仕方がなくて、そして満月は美月の『光』で、どうしても手放したくない存在になっていた。
「満月、……俺はお前が好きだ。愛しくて仕方がない」
微笑みながら言う美月の瞳は潤み輝く。
美月が再度前を向いた姿が嬉しくて、満月は再度決心し、それを言葉にした。
「今度こそ俺は美月さんを守ります」
その言葉を聞いた美月は、満月になら自分の全てを知ってほしいと思った。
それこそ美月の裏稼業、闇賭博の元締めのことすらも。
『もうこの子を子供扱いして、嘘で遠ざけるのはやめよう』、と、そう思ったのだ。
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