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第43話 これが最善。
太陽が着替え終えたことにより、二人の会話は中断せざるを得なくなったが、それでも美月の心は数段落ち着きを取り戻していた。
それにしてもだ、太陽における弓道教室での教えは、やはり『美月の模倣』だった。
そしてその教えを忠実に満月は再現してしまっていた。
満月らしい鋭い精神力のある凄味が消え失せてしまっていたことに、美月は残念で仕方がなかった。
「夜霧君、素晴らしいです。その形を忘れぬよう次回も練習に励みましょう」
太陽は満足そうに笑みを浮かべ今日の指導を終えた。
「ありがとうございました」
満月の一礼は弓道場に反響し、その響きが美月をより一層悲しませた。
そして満月は更衣室で着替えることもなく弓道着のまま道具を整理しまとめた。
「着替えないのですか」
「とても汗を掻いているので、着替えはよしておこうと思います」
言葉ではそういったけれども『お前と同じ部屋で、着替える気など毛頭ない』、と、そんな満月の冷ややかな本心を隠すように、彼は爽やかに微笑んだ。
「そうですか」
太陽は美月専属運転手だ、車を運転するため着替えねばならない。
『今の満月 が、美月様に何を吹き込めるわけがない』と、太陽は鼻で笑いながら更衣室に姿を消した。
「……満月、本当にお前はそれでいいのか?」
美月は満月に声を掛けるが、言われた彼は穏やかに笑顔をみせた。
「今はこれが最善だと、美月さんもわかっていますよね」
『太陽に逆らわない満月』、それが最善だと美月ですら思う、けれど『美月の模倣』の満月は見ていて辛かった。
「美月さんを守るためなら、俺はなんでもします。だから俺に任せてください」
満月は何か考えがあるような素振りだった。
「あなたは一人じゃない、そしてあなたの力になりたいのは俺だけじゃないことも知ってくれましたよね。今は俺を信じてください」
今朝から満月が変わったことに、気付きながらも美月は聞けなかった。
満月が変わった原因は、太陽が美月を暴き、そして美月が満月に嘘をついたこと。
美月は晩に嘘をつき、そして次の早朝の間に満月が大人へと成長していた。
その短い時間に、ここまで満月を大人へと変化させたのが、美月の嘘だけのはずがないのだ。
「満月……、お前」
美月は話を続けようとしたが、満月は遮った。
「帰ったら何か美味しいものを作りますね。食欲がなくても、何か腹に入れてもらいます」
町屋から聞いているのだろう、朝食もまともに採っていない美月は昼食すら採っていないことを。
自分を心配してくれている満月に感謝しつつ、これほどまでに愛してくれていることに、幸せを噛み締めた。
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