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第45話 抱擁。

 美月は重怠い気分に襲われながらも、日向 太陽の前では気丈に振る舞っていた。  しかし、まさか着信音がショパンのノクターンだとは。  マンションのエレベーターに乗り、満月は美月の部屋がある階数と閉まるボタンを押した。  『まだ気を抜いては駄目だ、ここには監視カメラがある』、と、美月は心の中で言い聞かせながら深い溜息を吐く。 「美月さん、お疲れ様でした」  きっと満月も監視カメラの存在が気になっているだろう、だから彼は普段通りに微笑みながら美月に話しかけた。  しかし今の美月にはもうそんな余裕はなかった。  ただ早く玄関に入って鍵を閉めたい、満月以外の誰も目に届かないところに行きたい、そんな気持ちだった。  部屋がある階数で止まったエレベーターを美月の先導で降りて、満月が部屋の鍵を開ける。  玄関に美月が先に入り、満月もと続いた。  ドアが閉まった音と同時に美月の身体は力が抜け、その場に膝をついた。 「美月さんっ」  満月は後ろ手のまま鍵を閉めて、美月を覗き込む。  顔面蒼白な彼を心配するあまり、肩を抱きしめたくなる衝動に駆られるが、既のところで押しとどまる。  怯えているが、美月の身体に許しもなく触れたら、自分も恐怖を与える存在になってしまうかもしれないと考えたのだ。 「……」  触れたいのに触れられない、そんなもどかしさに満月の手は離れていくが、その手を美月は掴んだ。 「お願いだ、満月。……俺を抱きしめてほしい」  今までに聞いたことのないくらい、か細く覇気のない美月の声色が、不安に満ちた少年と重なったような感覚になり、満月も膝をついて怯える身体を包み込むように優しく抱きしめた。  美月は嗚咽しそうになるのを必死に堪えながらも、涙を流した。 「っごめ……、まんげつ。おまえに、……うそを」  早く謝罪しなければ、と、焦る気持ちで美月は言葉を必死に紡ごうとしたが、謝ろうとすればするほど言葉が出てこなかった。  それを察しているわけではないだろうが、苦しそうに言葉を発する彼を見ているのが辛いと感じた満月は、その言葉を遮った。 「大丈夫です。ちょっとやそっとじゃ、美月さんを嫌いになったりしません。俺からの愛はあなたが思っているよりも重いことを、知らないんですか?」  『……あぁ、満月は温かい』、と、美月は思った。  太陽の冷酷な呪縛を溶かしていくような満月の圧倒的な優しい言葉と体温に、美月はすがりつくようにその背中に指を立てた。  この今の満月になら安心して身体を預けれると感じたからこそ、美月は隠していたことも全て話そう、と、再度思った。

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