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第54話 美しい花とカブトムシ。

 背番号07(ヨギリ マンゲツ)の完成度は計り知れないものだった。  そんなパーフェクトと言える的中を目の当たりにした太陽の身体は、次第に震え始める。 『何故だ……、私の弓道こそが完璧な美月様の模倣(コピー)のはずなのに!!』、と、心の中で太陽は絶叫した。  身体の震えだけでなく、息も荒々しく乱れていくと矢は的にすら当たらなくなった。  その姿は見ていられない程に哀れな雰囲気を漂わせる。  それを冷ややかに見下ろすVIP席の静は、側にいる美月にだけ聞こえる声で呟いた。 「一生手の届かない人を手に入れようとするから、馬鹿をみるのよ。憧れだけにしておけば、近くに居られたはずなのに。本当に愚かね」  太陽にとって美月は憧れの存在だった。  憧れを感じ、好意に値する相手を揶揄った、それが原因で相手は嫌な思いをしても、揶揄った本人はそれに気付かない場合が多い。  太陽は美しい美月(ヒト)に焦がれ、そして淡い恋をしたのだ。  そして自分の努力だけで手に入れられなければ、憧れだけで終われるはずだった。  しかし美月に焦がれる太陽の存在を美剣に知られたのが、一番いけなかった。  孫やそのまわりを強く育成させるために、美剣はどんな手でも利用する人物なのだ。  美月が『女狐』ならば美剣は『悪狸』だろう。  自らその知識は知らなくとも、知る者を従え、動かし助力させる、それは静だってそうだが、美剣と静は使い所が違う。  それを考えると、ある意味で日向 太陽も被害者なのかもしれない。  それにしてもだ、やはり北白川 美月の存在は罪だと静は感じていた。  美しい彼が放つ蜜に酔いしれたくて、寄ってくるものは静にとって毒虫以外の何者でもないと思っていた。  美しい花には棘がある。  美月が花ならば棘はプライドの高さで、その棘をも恐れず、圧倒的な力で蜜に有りついたのは猛戦士(カブトムシ)満月。  そう想像して、静は目を細めながら微笑んだ。  大会が終わり優勝者は匿名選手の背番号07(ヨギリ マンゲツ)、日向太陽はランク外だった。  表彰を受け、弓道大会が終わった。  優勝者の満月は匿名選手だが、二年前の高校生弓道大会の全国制覇者だ、この弓道界では顔も名前も知られているため、取材陣に囲まれていた。  そしてランク外だった太陽は、王者の風格は削がれ今にも悔し泣きしそうな表情だった。  中学時代の揶揄ってきたあの悪ガキと表情が重なり、美月はハッとした。  『面影もないと思ってたけど、やっぱりあったな……』、と、美月は過去を思い出し懐かしくなった。  こんな雑魚に自分は怯えていたなんて、美月は笑いたくなってきた。  そして美月はこの場で太陽に別れを告げた。 「約束通り、二度と俺の前に現れるな」  その言葉を放つ美月は、いつもの北白川組若頭の不敵な微笑みを浮かべていた。

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