55 / 62
第55話 静けさ。
美月の身を守るためだけに匿名選手として潜入した満月だった。
もし太陽が優勝してしまいそうなときにだけ自分が勝ちにいこうと思い、太陽の一射を見た。
ド真ん中を射抜きVIP席を見上げる太陽には余裕が見えた。
そのときに満月は感じたのだ、この大会を太陽が勝利するのだろうと、美月が怯えていることに。
満月は美月の守護者 だ、ならばその不安と怯えを取り除かなければ。
そんな気持ちで、真剣に弓道に向き合っていたら弓道大会が終ってしまっていた。
『美月さんが嫌だと思うことが起こらなくて、本当に良かった』、と、表彰式のあと満月は美月の側に向かおうとしたが、取材陣に囲まれてしまった。
無下にできない満月は高校生のときと同じように取材陣に答え始めた。
視界の隅に美月を捉えたとき、満月の感情は抑えきれず取材陣に断りを入れようとしたのだが、制したのは町屋だった。
「夜霧 満月君、こちらへ。VIP席の方々にご挨拶をお願いします」
「はい」
満月の視界には美月しか入っていなかったが、美月の他にも静がいたのだ。
ならば挨拶せざるを得ない、満月は町屋に連れられて静の前に来た。
「満月さん、見事でした。これからも精進なさい」
静は微笑みながらそう言うと満月は一礼をした。
「はい」
美月はどんな言葉をかけてくれるだろうか、そう期待していたが、美月からの一言は『優勝おめでとう』だった。
他もなにかあってもいいのではないか、満月は思ったのだが、よく見ると美月の瞳が潤んでいるのに気付く。
美月は泣いてしまいたいほど嬉しいのだが、人前だからこそ他は何も言えなかったのだろう。
すると町屋は改めて言った。
「VIPルームで会長がお待ちになられています。皆様をご案内します」
このタイミングでやはり美剣は自分達を呼びつけるだろう、想定の範囲内だったが、静は涼やかに微笑み町屋に言った。
「美剣さんの元に行くのは私だけでいいでしょう。これ以上愛する者達に時間を与えないのは野暮というものですよ」
そう述べると、静は自らVIPルームに向かい、そのあとを町屋が追った。
ようやく二人だけで話せる機会ができたのだが、まだ弓道場で人目がある。
美月は抱きしめられたい衝動に駆られながらも必死に堪えながら満月に言った。
「早く帰る支度しろ。人目が気になって、……ここじゃなにもできない」
最後に吐き出された熱い吐息に、美月の体温を感じた気がして、満月は少し頬を染め返事をした。
「はい」
ともだちにシェアしよう!

