56 / 62
第56話 カッコイイ。
マンションに帰る車の運転は、満月を労うために美月が担当した。
美月の運転は急ぎたい心とは真逆で、とてもゆったりしていた。
「なんで弓道大会に出場することを言わなかった?それになんでお祖母様に助けを求めたことを、俺に言わなかったんだよ?」
美月は拗ねているような雰囲気で言った。
拗ねている美月は珍しいため、満月は嬉しくて微笑んだ。
「大会に出場することを言わなかったのは、静様に口止めされていたのもあったんですけど、一番の理由は日向さんや俺よりも強い選手がいるかもしれないと思ったからです。事前に知らせておいて優勝できなかったら、カッコ悪いじゃないですか」
やはり普段の満月は温厚で謙虚だと思った。
「でも日向 太陽は確実に俺が叩きのめそうと思ってました。美月さんを傷付けた相手は俺の手で、二度と立ち上がれないようにしたかったので」
満月に負けたとしても、太陽は才能のある実力者だ。
いつかまた何処かで姿をみせることはあるかもしれない。
「お前は俺が思っていたよりも賢いな、満月」
満月は美月が思っているよりも賢い。
賢いというよりも、ずる賢いのかもしれない。
「俺も美月さんを騙していたこと謝らないと。大学に行っていると見せかけて、弓道場に通っていました。ごめんなさい」
そしてどこまでも素直な男だった。
「静様に助力してくれるように頭を下げたのは、静様が美月さんを本当に心配しているように感じたからです。美月さんにも静様が必要だった」
満月は二年前はじめて静に会ったとき、その場にいた美月は心の底から笑顔になっていることに気付いた。
美月は幼い頃本邸で過ごしていた期間があったが、その頃本当に楽しいと思えた時間は祖母の開くお茶会に招かれマナー指導を受けていたときだった。
「おまえもあのババアに気に入られたみたいだし、そのうちお茶会に誘われるかもな」
そのときに恥をかかぬよう、マナー指導をしたほうが満月のためになるかもしれない、と、思った。
マンションの地下駐車場に車を停めてから、美月は言った。
「改めて、優勝おめでとう。満月、おまえは本当にカッコイイよ」
久しぶりに綺麗な微笑みを浮かべた美月を見た満月は、感無量な気持ちで返事をした。
「ありがとうございます、美月さん」
軽く抱擁を交わしただけだが、直接互いの体温と香りを確かめただけで、美月のスイッチが入ってしまった。
「おまえに早く抱かれたくて、しかたがなくなってきた」
美月のその煽り言葉を聞くのも久しぶりで、満月のスイッチも、とうとう限界を迎えようとしていた。
ともだちにシェアしよう!

