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第63話(番外編1)甘い時間。
表向きのIT会社の社長として、そして北白川組の若頭として、立場が上の美月は疲れていた。
そんなときに限って裏の闇賭博の元締めとしての大きな案件もあり、数字の羅列を睨みつつ勘を働かせながら、慎重なデスクワークをこなしていた美月の疲労は限界に達していた。
ようやく今日の仕事を終え、どっと押し寄せる疲労感に身を任せるように、美月はダイニングのソファーへ深く身体を預け、重い溜息を吐き出した。
その時満月が静かにマグカップを運んできた。
「美月さん、お疲れ様です」
そう言いながら差し出されたマグカップにはホットミルクが注がれていた。
「ありがとう、満月」
温かな湯気とともに甘い香りがしたので、蜂蜜入りのホットミルクだと気付いた美月は、マグカップを受け取った。
受け取る一瞬に満月の手が触れ、自分の手が冷たかったことに気付いた。
「やっぱり美月さんの手、冷えてましたね」
満月にも言われてしまった、と、美月は苦笑いでマグカップを受け取った。
あのときの自分の手も、そして心は凍えきっていた。
あのとき……日向 太陽に身体を暴かれ、満月に嘘を付いた美月に気付きながらも責めることなく癒してくれた、そのときに淹れてくれた蜂蜜入りのホットミルク。
その優しさと気遣いに美月はどんなに救われたことだろうか。
美月に取って満月はまさにそのホットミルクなのだ。
そして今もこうして癒してくれている。
「……温まりました?」
きっと自分は満月が心配するくらい顔色が悪かったのだろう、マグカップで暖を取るために両手で包み込むように持ち変えた。
「ああ、とても温かい。……おまえみたいだ、満月」
そう安心したように微笑む美月を見て、満月も微笑んだ。
差し出されたホットミルクのように、満月の体温はいつだって美月の凍えた心を芯から溶かしてくれる。
甘い香りに包まれながら、二人はどちらからともなく距離を詰め、静かに唇を重ね合わせた。
今夜はきっと、言葉もいらないほどに甘い時間が、二人を満たしていくはずだ。
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