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第9話
夢の怪人を始末してから、眠らされていた市民は病院へ搬送された。外から呼びかけることで無事に次々と目を覚ましたようだ。
空は薄墨色の雲に覆われ、湿った空気が静かに肌を撫でる六月の日曜日。
寮の食堂で、俺は一色 と四十万 と三人で昼食を兼ねた二回目の作戦会議を開いていた。
「モグルについてわかったことがあります」
四十万がその名を口にすると喉が詰まりそうになったので水を飲んだ。
「な、何がわかったんだ?」
「藻沼 製薬という製薬会社があるのですが、副社長が藻沼 潜流 。怪人の遺伝子をドーピングすることで人間に異能を与えることについての論文を書いた天才少年です」
藻沼製薬……そんなのあったんだ。
潜流って副社長だったのか。しかも天才。俺と同年代に見えるのに、すごいなあの人。
……って、呑気に感心できる状況ではない。
「烏 の怪人と一緒にいたモグルという男の子がこの藻沼潜流ではないでしょうか?ネット記事の写真と容姿が似ています。烏の怪人に指示をしていたのかもしれません」
どうしよう。四十万の考えは理路整然としていて、少しずつ潜流の正体に迫っている。
「藻沼製薬は怪人の組織のフロント企業だと思います」
「じゃあ、その藻沼製薬の社屋に行ってみるか?」
一色は殴り込みをかけたいようだ。
「藻沼製薬はカモフラージュですから行っても何も無いでしょう。怪人の組織の本部とは別だと思います」
確かに、秘密結社ダークムーンの本部の場所がわからないとどうしようもない。
「柊が捕まっていた建物に行ってみるのはどうだ?」
あの建物は初めて潜流と出会った場所で、ダークムーン支部だ。
「俺に見つかった建物なんかもう放棄してるかもしれねぇけど、手がかりはそこだけだろ。今なら柊も強くなったし、ちょうどいい。調査に行ってみようぜ!」
「そうですね。柊さん、どうですか?」
今は前に進むしかない。
敵対していても、前に進むことが潜流に近づくことになるんだから。
「行ってみよう」
俺たちはダークムーン支部に到着した。
逃げた時はじっくりと見物する余裕なんて無かったけど、改めて見ると怪しい廃病院のような不気味な建物だ。梅雨時の曇り空が雰囲気を更に重苦しくしている。
勇気を出して建物に入ると、雑魚怪人たちとの戦闘になった。
一色の念力が怪人の首を一瞬でねじり切り、四十万の手から生える刃が怪人をぶった斬り、俺は増悪の異能で怪人の傷口を広げた。
怪人たちを掃討して建物の中を調べていると、殺風景な部屋の隅に奇妙な物が置いてあった。
ファンタジーのRPGに出てくるような宝箱だった。
「宝箱だ!」
俺は思わず声を上げた。
「なんでこんなところにゲームみたいな宝箱が置いてあるんだよ!」
一色も宝箱の存在にツッコミを入れずにはいられないらしい。
「罠かもしれませんよ。ミミックの怪人で、開けたら襲いかかってくるかもしれません」
四十万の言う通り、これが怪人ってこともありえる。
「みんなちょっと離れろ。宝箱は離れた位置から俺が念力で開ける」
一色に従って俺達は宝箱から離れた。
一色が念力で宝箱を開いたが、宝箱が動いたり襲ってきたりする様子は無い。
「もう大丈夫じゃないか?中身を見ても……」
俺は一色と四十万に聞いた。
「まだダメだ。そうやって油断して中を覗き込んだら上半身に噛みつかれるかもしれねぇ。中身も俺が念力で取り出すぞ」
一色が念力で宝箱の中に入っていた物を空中に浮かべると、それは二枚の紙だった。紙には何か書かれているようだ。
一色が二枚の紙を念力で引き寄せ、書かれている内容を確認した。
そして、二枚の紙が一色の手からスルリと床に落ちた。
一色は凍りついたように動かない。
四十万がサッと一枚拾って確認すると、驚愕しているようだった。
「大変です!柊さん、これを見てください!」
四十万から渡された紙を見るとそこには、俺を拉致した青薔薇の異形頭の女の写真が載っていた。
写真の右隣には被験者、花の怪人、一色 蒼 と書かれていた。
花の怪人の異能は他人に近づいて花の香りを嗅がせて気絶させると書かれていて、これは身をもって味わったことだ。
あの青薔薇の女が一色の妹の蒼さんだったんだ。
床に落ちていたもう一枚の紙を拾って確認すると俺のことが被験者、柊 玻璃彦 、異能未確認と書かれていた。
俺は一色に助けられて逃げたから怪人たちは俺の異能がどんなものか知らないんだ。
「一色……」
俺は一色が心配になって名前を呼び、顔を覗き込んだ。
「蒼は怪人の組織に拉致されて異形化させられたんだ……」
そう言った一色は顔面蒼白で無表情だった。
「俺は大丈夫だ」
一色は強がっているけど、とても大丈夫そうには見えない。
「おそらく藻沼潜流の仕業でしょうね」
「ああ、俺もそう思う」
蒼さんは俺と同じように拉致されて潜流に怪人の遺伝子をドーピングされたんだろう。
「このことは先生がたに相談して、蒼さんを人間に戻す方法を探しましょう」
四十万は一色を励まそうとして言っているみたいだけど、異形化した怪人を人間に戻す方法なんてあるんだろうか。
もちろん蒼さんが人間に戻れたら良いと思う。
でも人間に戻れないならどうすればいいんだ。
そうだ。論文を書いて実験をしたのは潜流なんだから、潜流なら異形化を治す方法だって知っているんじゃないのか?
個人的なことだけじゃなくて、一色と蒼さんのためにも潜流に会って話さなければならない。
でも、どうすれば潜流にまた会えるんだろう。
俺たちは重い足取りで怪人退治学園の寮に帰った。
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