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第10話
六月の間は夏じゃないと言い張ってたけど、七月になると夏が来たと認めるしかない。
さあ今年も灼熱の地獄がやって…来ない。寒い。朝に目が覚めて、ここは学校の寮の自室だけど冷房がいらないどころか暖房が必要なくらいの寒さを感じる。
カレンダーとのギャップを感じながら食堂へ向かった。
まるで冬みたいだ。
食堂では七月だというのに暖房がついていて、生徒たちは冬服の制服を着たままこの異常な気温について話している。
「おはよう」
挨拶をして、朝食のサンドイッチとカフェオレをトレイに乗せて一色 と四十万 がいるテーブルに着いた。
「柊さん、おはようございます」
四十万が礼儀正しく挨拶を返してくれた。
「おはよう、柊。寒ぃよな。もう七月だってのによ。まあ、暑いよりマシだけど」
蒼 さんのことがあるのに一色は俺の前では明るく振る舞っているから、その空元気がますます心配になる。
「寒いのは温かい飲み物でまだなんとかなるからな」
一色はそう言ってマグカップでコーンポタージュを飲んだ。
「この寒さは怪人の仕業ではないでしょうか。藻 沼 潜流 の異能もまだわかりませんし……」
暑くても寒くても怪人と戦って、藻沼潜流と秘密結社ダークムーンの本部を探すことが今の俺たちの目的だ。
朝食を食べ終わって一息ついたところで携帯端末が鳴り、出動要請が来た。
今回はいつもと違って三人とも違う場所からの出動要請だから、三人一緒には行けない。
俺は一人で現場へ向かった。
街では氷の塊で出来たゴーレムのような怪人が暴れている。
往来の人々は怪人から逃げているが、中には怪人の撮影を試みる命知らずもいる。
怪人は殴ってくるだけではなく弾丸のように氷を口から吐き出すので、仕込み傘を開いて防ぐ。
抜刀して、怪人のパンチを避けながら氷を砕くように叩っ斬ることで倒した。
氷で出来た怪人を斬った時は無機物を壊すような感覚で、これまでのような血の通った生き物らしい手応えが感じられなかった。
一人ずつの怪人は大した強さではなかったが、同じ氷のゴーレムの姿をした怪人が何人もぞろぞろとやって来た。
同じ異能を持つ怪人が複数なんてありえるんだろうか?
しかし考えている暇は無い。
怪人を次々に刀で砕いていく。何人か倒したところで、やっと怪人は現れなくなった。
これで終わりかと安心していると、謎の青年がひょっこり現れた。
「あれっ?全部倒しちゃった?だりぃ〜」
白髪のショートヘアから三つ編みのエクステをぶら下げた怪しいイケメンだ。
「かーえろ」
青年は独り言のようにそう呟くと、何をするでもなく踵を返して去っていった。
今日の戦いは終わったから帰ろうとして歩いていると、人混みの中に潜流を見つけた。
離れたところにいても、そこだけがピカッと光るみたいにすぐに彼だとわかる。
人混みを掻き分けて潜流を必死で追いかけたが、見失ってしまった。
疲れたしコーヒーを一杯飲んでから帰ろうと思った。
コーヒーのチェーン店に立ち寄りカプチーノを注文して、ボックス席は満席だったから窓側のカウンター席に座った。
「玻璃彦 、何注文したの?」
カプチーノを飲んで一服していると、いきなり話しかけられた。視線を上に向けると、なんとそこには潜流がトレイを持って立っていた。
口から心臓が飛び出しそうなほど驚いている俺を尻目に、潜流はコーヒーが乗ったトレイをカウンターテーブルに置いて隣に座った。
「君はカプチーノか。僕はブラックコーヒーにしたよ」
潜流はクラスメイトにでも話しかけるかのように気安く話しかけてくる。異能が戦闘向きじゃないらしいから、逃げた俺を連れ戻そうとして一人で襲いかかってくることはないようだ。
ドキドキしている場合じゃない、異形化を治す方法を聞かなければ……!
「会いたかった!」
俺がそう言うと潜流が一瞬目を丸くして失笑した。なんか恥ずかしい。いや、そうじゃなくて……。
「あのさ、怪人にされた元人間の異形化を治す方法ってあるのか?」
よし、聞いたぞ!
「無いよ」
潜流の答えは非情だった。
「無いってどういうことだよ」
「人間とは違うものに変化した体細胞が元に戻るわけないし、強くなったんだから戻る必要も無いってことさ。社会的には異形化じゃ困るかもしれないけどね。異形化を治す?人間に戻す?そんな都合の良いハッピーエンドがあると思っていたの?」
こういう答えを予想していなかったわけじゃないけど、一色になんて言えばいいんだろう……。このことは言わないほうがいいかもしれない。
「ダークムーン支部に攻め入ったらしいね。宝箱の中身は気に入ってくれたかな?同級生の妹を人間の姿に戻してあげたいんだろ。でも家族ならどんな姿でも受け入れるのが家族愛ってもんじゃない?」
「そういう問題じゃないだろ」
「頭が青薔薇で何が悪いの?元の顔より美人になったじゃないか」
「そういう問題でもない。蒼さんは今どこにいるんだ」
異形化が治らないとしても、無事なら居場所を聞き出して助けたい。
「一色蒼は幹部としてダークムーン本部で暮らしてるよ。異形化して人間社会には戻れないから怪人として生きるしかないしね。僕の部下として真面目に働いてくれているよ。本部の場所は当然だけど秘密さ」
蒼さんがダークムーンの幹部になっているだって!?
もう人間としての人生を諦めているってことだろうか……。
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