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第11話

「聞きたいことはそれだけ?」 潜流(もぐる)に聞かれて、心を落ち着けるためにカプチーノを一口飲んだ。 「まだ聞きたいことはある。藻沼(もぬま)製薬の社長について」 藻沼製薬はダークムーンのフロント企業で、潜流は副社長だ。ってことは、当然その上には社長がいる。 「藻沼(もぬま)神機郎(しんきろう)。僕の父親。怪人で、ダークムーンの首領だよ」 潜流の父親が首領……! インターネットで見た神機郎は、髪の色は潜流と同じ青緑色だけど、潜流とは違って日本人の顔をしたハンサムなおじさんだった。 「お前ら親子は秘密結社なんか作って一体何がしたいんだ?世界征服か?」 ダークムーンの目的を聞くことにした。 「父の目的はその通り。怪人による世界征服」 「潜流は違うのか?」 「僕はそんなことには興味がない。僕が目指すのは宇宙の外だ」 宇宙の外……!? 「宇宙の外ってどういうことなんだ?」 「この宇宙以外にも複数の宇宙が存在する。それをマルチバースと呼ぶんだよ。僕はそのマルチバースを旅するつもりだ」 「お前がマルチバースを旅するって、スケールがデカすぎる話だな……でも、寿命はどうする?怪人でも人間でも、ヒトの寿命じゃ複数の宇宙を旅するなんて間に合わないぞ」 「そのことなら解決済みだよ」 「えっ、不老不死になったってこと!?」 「そうだ。老化で死なないというだけで、怪我や病気を完全に防ぐわけじゃないけど」 潜流はコーヒーを飲みながら日常のことみたいに話している。でも、こっちは潜流が不老不死だなんて寝耳に水だ。  「不老不死がお前の異能ってことか?」 「異能とは関係無い」 「お前の異能はなんだ?」 「君の異能から先に教えてくれるかな?君が逃げちゃったから知らないんだ」 「それは教えられない」 こうして話していると忘れそうになるけど、潜流は敵の怪人だ。俺の異能を教えるわけにはいかない。 「じゃあ僕も教えない」 藻流はニヤニヤ笑いながらふざけた態度で話している。 「僕はこれで失礼するよ。夜道に気をつけて」 夜道に気をつけてが別れの挨拶かよ! マルチバースといい不老不死といい、潜流が言うことに常識的なツッコミを入れるのは無駄な気がしてきたな。 潜流は飲み終わって空になったカップとトレイを返却してコーヒー店から出た。 そうだ、潜流を尾行すればダークムーン本部の場所がわかるんじゃないか? 俺もカップとトレイを返却してから店を出て、こっそり潜流の跡を付けた。 でも、いつのまにか撒かれてしまったから意気消沈して学校に帰った。 夕方。学校の教室に帰ると、一色(いっしき)四十万(しじま)も戦いを終えて帰って来ていた。 一色は携帯端末を操作してネットを見ていて、四十万は横から画面を覗き込んでいる。 「柊、お帰り。俺たちは藻沼親子について調べてた。この潜流って奴ぁいけ好かねぇ面してやがる。父親の神機郎って奴も、いかにも成金の気取ったおっさんで感じ悪ぃ面だな」 藻沼親子への悪印象を隠そうともしない一色。 妹を異形化させられた一色の立場を考えれば当然だ。 「こいつらの面は覚えた。さあメシだ、メシ」 一色がそう言って携帯端末の画面を消すと、俺、一色、四十万の三人で食堂へ向かった。 食堂で俺が塩ラーメンを選ぶと一色と四十万も真似して塩ラーメンを選んだ。 ラーメンを啜りながら今日の戦いについて話し合うことになった。 「俺は氷で出来た怪人と戦ったんだけど、同じ怪人がたくさん出てきたんだ。生き物じゃない感じがしたのも今までと違っていた」 「柊も氷の怪人と戦ったのか?俺もそうだ。念力で砕いたけど、どう見てもただの氷って感じだったんだよな」 「私も同じです。彼らは単純な動きで、操り人形みたいでした。怪人も量産型になってきているんでしょうか」 俺、一色、四十万は三人とも同じ氷の怪人たちと戦ったようだ。 「そいつらのせいで夏なのにこの寒さになってんのか?おかげでラーメン美味いけど」 一色がラーメンをズルズル啜っている。 「そういえば、現場に怪しい男がいた。白髪の若い男で、『全部倒しちゃった?』とか言ってたような……」 俺は現場にいた白髪の青年を思い出して二人に話した。 「その人が氷の怪人を操っているんじゃないですか?氷の怪人の味方みたいな言い方だと思います」 「怪しすぎだろ!」 一色と四十万は白髪の青年を疑っているようだ。 「俺もそう思う。そいつにも警戒しておくに越したことはない」 夕食後、日が沈んで空が真っ暗闇になった。 寮の自室で課題を片付けてナイトルーティンも終わり、後は寝るだけ。 携帯端末でネットを見ながらパジャマ姿でのんびり過ごしていると、まさかの本日二回目の出動要請が来た。 慌ててパジャマの上からコートを羽織り、靴を履き、仕込み傘を持って部屋の外へ出た。 廊下では、他の生徒たちが慌てふためきながら次々に部屋から飛び出していた。 携帯端末の画面を見ると現場は離れた場所ではなく、学校の校庭だった。 校庭には、昼に戦ったのと同じアイスゴーレムのような氷の怪人たちが集団で押し寄せていた。 怪人が学校に攻め入ってくるなんて初めての経験だ。

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