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第13話

目の前に立ちはだかる氷の騎士・雪見(ゆきみ)にまるで歯が立たない俺、一色(いっしき)四十万(しじま)。 そこで俺は決断を下した。 「みんな逃げろ!」 扉があったところへ一目散に逃げて、大広間から廊下へ出た。三人で猛ダッシュ。 別に卑怯ではない。走為上(そういじょう)って兵法書にも書いてある。三十六計逃げるに如かず。逃げてから作戦を考え、準備が整ってから再び挑むことにしよう。 当然、雪見も猛ダッシュで追いかけてきた。 俺たちは橋を渡り、浜辺で三人バラバラの方向へ逃げた。 雪見は俺を生け捕りにしろと言われているから他の二人には目もくれずに俺を追いかけている。 氷の甲冑に全身を覆われた騎士を見て驚く人々を避けながら路上を走り、駅に入り、改札口をICカードで通過し、電車に飛び乗った。 咄嗟(とっさ)に振り返ると、雪見の目の前で電車のドアが間一髪(かんいっぱつ)で閉まった。 閉め出された雪見がドアの窓ガラスに両手を突くと、窓ガラスが一気に氷結して真っ白になった。 乗客たちが驚いて雪見に注目し、小声で怪人だと囁ささやいている。 雪見を駅のプラットフォームに置き去りにしたまま電車が発車して、俺はひとまず難を逃れた。 ラッキーだ。 このまま学校へ帰ってしまおう。 座席に座って一色と四十万に端末で連絡を取ろうとした時、彼らの方から連絡が来たのでチャットアプリを開いた。 「柊、大丈夫か?」 「電車に乗った。雪見は振り切ったから大丈夫だ。それより一色と四十万は?」 「俺は飛べるから」 一色、空を飛べるのか? 念力を自分の体に使って空中浮遊するってことだろうか。 「私はタクシーで帰ります」 四十万はタクシーか。二人とも雪見に遭遇しないルートで帰れそうで良かった。 しかし、帰ったら雪見をどうやって倒すか考えなければならない。 学校に帰った俺は職員室へ向かい、雪見の全身を覆う氷の甲冑について馬場先生に相談した。 「氷の怪人が、氷の甲冑を着て防御しているんですね。うんうん、ちょっと待って下さい」 先生は俺の話を聞いて戸棚をガサゴソと探り、何やら取り出した。 「これを使いなさい」 「ありがとうございます」 先生から道具を借りて、翌日、雪見に再戦を挑むことになった。 一色と四十万に作戦を説明して、俺たちは再び氷の城の大広間を訪れた。 雪見は最初から氷の甲冑に身を包み、玉座に座って俺たちを待ち構えていた。 「お前らまた来たのかよ。何度やっても同じだぞ。だりぃ〜」 氷の騎士は気怠そうに立ち上がった。 一色が、襲ってくるアイスゴーレムを雪見に向かって念力で投げつける。 雪見がそちらに気を取られて氷の柱を出して振り払う隙に、俺は雪見に向かって猛ダッシュして道具を取り出した。 「これでも食らえっ!!」 超強力解氷スプレーを雪見に向かって噴射した。 車のフロントガラスなどが凍結した所を溶かすための普通の解氷スプレーではなく、超強力な解氷スプレーだ。 氷の騎士の全身を覆う氷の甲冑が溶けていき、生身の姿が現れた瞬間を四十万は見逃さなかった。 四十万の握り拳から生えた刃による鋭い突きが一条の光のように繰り出され、雪見の首に突き刺さった。 四十万が刃を引き抜くと、雪見がその場に倒れて白い氷の床に真紅の血溜まりが広がっていく。 「死にました?」 倒れている雪見の腹に四十万が念押しで再び刃を突き刺すと、地鳴りのような音と共に氷の城全体が揺れ始めた。 「城が崩れる!逃げるぞ!」 俺は一色と四十万に呼びかけて一目散に走り出した。 城から出て、城と浜辺を繋ぐ海上の橋を走ると後ろから橋が崩れていく。 念力で飛行している一色には関係無いことだけど、俺と四十万は橋が崩れるよりも速く走らなければならない。 急いで逃げていると、城に入る時よりも橋が長く感じる。 全力で走っていると、足がもつれて転んでしまった。 しまった!と思ったら、体が空中に浮かび上がっていた。 「しっかりしろよ!」 一色が俺を小脇に抱えて飛んでいた。 「あ、ありがとう……!」 俺は一色に抱えられ、四十万は自力で走って浜辺に辿り着いた。 浜辺に着地して振り返ると、海上に(そび)え立っていた氷の城が跡形もなく消えていた。 「勝っ……た?」 氷の騎士に勝ったことが信じられなくて思わず呟いた。 「よっしゃあああ!」 「私たちの勝利です!」 一色はガッツポーズで勝利を喜んでいる。いつもは無表情な四十万も今回は嬉しそうだ。 その時、おそらく雪見の異能の影響で冬のように寒かった気温が一気に夏の暑さに戻ってしまった。 「あちいいいいい!!なんだこれ!」 一色が叫びながらコートと手袋と学ランの上着を脱ぎ捨てた。 容赦無く降り注ぐ夏の日差しの刃のような鋭さ。じめじめした湿度の高さ。 この灼熱の地獄が本来の日本の夏だ。 俺たちは急いで学校の寮へ帰った。 シャワーを浴びて自室でエアコンの冷房を全開にして氷水を飲み、ようやく一息つくと、ベッドの上に鎮座しているシマエナガのぬいぐるみと目が合った。 そういえば潜流(もぐる)は今頃どうしているんだろう。 会いたい系のラブソングってさっさと会いに行けば?って思っていたけど、居場所も連絡先もわからないんじゃ確かに会いたくても会えない。

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