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第14話
すっかり寒くなってきた十一月。
休日は以前にも増して、潜流 を探して街を巡回するようになった。
潜流に会ったショッピングセンターやコーヒー店にも寄って、潜流がいそうな場所に足を運んだ。
前に会った時は尾行に失敗したから、今度会ったら通販で買ったひっつき虫型GPS発信機を潜流につけるんだ。
ひっつき虫は棘が生えていて服に付着する植物の種や実だ。
このひっつき虫型GPS発信機は一見ただの植物の種だからバレても怪しまれない。
これを潜流につけることでダークムーン本部の場所を明らかにしようとしているってわけだ。
まあ、潜流を見つけないとどうしようもないけど……。
今日も見つからなかった。
映画を観て気分転換しようと、ミニシアターに入った。レトロな雰囲気の小さな映画館だ。
古びた建物の壁には映画スターの写真や映画のポスターが所狭しと貼られていて小洒落た雰囲気を醸し出している。
シアターの座席に座っているのは俺だけで貸し切り状態だと思っていると、上映直前に誰か入ってきて俺の隣に座った。
どの席も空いているのに、なんでわざわざ隣に来るんだろうと思って客の顔をチラリと見ると、潜流だった。
「も……!?」
俺は驚きのあまり名前を叫びそうになった。
潜流が人差し指を唇の前に当てて、しーっ静かにしろよと言いたげな仕草をしている。
どういうつもりなんだこいつは……と思いながらも視線をスクリーンに戻した。
始まったのはBL映画。人間の少年と怪人の少年のBLという設定だ。
潜流の隣で観ることになるとは思わなかった。
リラックスして観るはずだったのにこれでは緊張して心音が和太鼓みたいになってしまう。
潜流がBL映画を観るなんて意外にも程がある。潜流って冷酷なマッドサイエンティストに見えるけど、恋愛感情とかわかるのか…?
でも、映画を観るからって自分が恋愛するとは限らないしな。
今はそんなこと気にしている場合じゃない。こんなに近くにいるなら、ひっつき虫型GPS発信機を潜流につけるチャンスじゃないか。
いい感じのシーンで潜流がスクリーンに集中しているタイミングで発信機をつけよう。
映画がラブシーンに突入したところでチラッと隣を見てみると、潜流の端整な横顔がスクリーンの光に照らされていた。
今だ。発信機を潜流の服にそっとつける。
……やった!上手く服にくっついた。
後は何食わぬ顔で映画を観るだけだ。
「君がBL映画を観るとはな」
映画が終わりシアターが明るくなると、潜流が不思議そうに俺の顔を見た。
「それはこっちのセリフだよ!恋愛に興味あるのか?」
「相手次第さ。積極的に出会いを探しているわけじゃないけど、いい相手がいれば考えなくもないよ」
「俺は?」
な、何言ってんだ俺!
勢いでとんでもないことを聞いてしまった。
これじゃ告白したも同然だ。
こんなことを聞いて、この場で振られたら全ておしまいじゃないか。
潜流がキョトンとした顔をしている。
静かなシアターに気まずい沈黙を伴った時間が流れる。
「あ、やっぱり今の無し!」
俺の慌てっぷりを見て潜流が失笑した。
「玻璃彦 、君さえ良ければこれから食事でもどう?」
「……!?うん、行こう!」
考える前に返事をしてしまったけど……食事!?
もうデートじゃないのかこれ。
あ、でも夕方だし潜流が腹減ってるだけかも。
「行きたい店があるんだ」
潜流がそう言って先にスタスタと歩いていくので、一体どんな店に行くつもりなんだと思いながらついて行った。
「ここって…」
回らない寿司屋!
「無理だよ。お金無い」
「大丈夫、僕の奢りだよ」
そうか、潜流は学生じゃなくて悪の組織の幹部だからお金持ちなんだ。
……って、潜流が悪いことして儲けた金で俺が寿司食ったらダメだろ!
でも、これは情報収集だ。そうそう!情報を引き出すためだから仕方ないんだ。
自分に言い訳をしながら席についた。
「じゃあ、カッパ巻きにしようかな」
俺はダークムーンの被害者に遠慮して、せめて安い寿司にしようとした。
「はっはっは。遠慮しないでもっと高いものにしたまえ。大トロ二貫ずつで!」
安い寿司にしようとしたのに、潜流が注文してしまった。
こうなったらもう、食べるしかない。
美味しい!口に入れた瞬間、あまりにも美味しすぎて幸せな気分になった。
その後もウニや海老を食べてしまい、罪悪感と美味しさで葛藤中。
味わっている場合じゃない。潜流に聞きたいことを聞くなら今がチャンスだ。
「今日の映画観て思ったんだけどさ。恋愛する気持ちは人間も怪人も同じなんだよな」
「そうみたいだね。僕は人間でも怪人でもないから、どっちの立場とも違うけど」
「それ、どういうことなんだ?人間でも怪人でもないって。お前は怪人じゃないのか?」
「僕の父は怪人、母は人間なんだ」
「そうだったのか……。それって、どっちでもないっていうより、どっちでもあるっていう……」
「どちらとも違う生き物だよ。どちらよりも優れているしね」
俺が話す途中で、遮るように潜流がぴしゃりと言った。
「父が人間の母を選んだ理由は、混血すれば両親よりも優れた子どもになるんじゃないかと思ったかららしいよ。僕の異能の発現が遅くて、父に殺されかけたこともあった」
潜流の父親、神機郎 はヤバい奴だ。
潜流が悪の組織の幹部なのは、この父親に強制されているからじゃないのか……!?
「怪人の子どもを産んだことが人間にとっては身体的な負担が大きすぎたのか、母は僕を産んですぐ死んだらしい」
潜流は身の上話を講義のように淡々と語っている。
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