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第16話
隣の県へ電車で行くには、一回乗り換えを挟んで一時間。駅から徒歩10分歩いた場所に謎の巨大な建物・藻沼 製薬研究センターがある。
電車に俺と一色 と四十万 は三人並んで座っていた。この車両には俺たち以外に誰もいない。
「研究センターがもしダークムーン本部だったら、端末で他の生徒に救援要請を出すということで」
四十万の言葉に俺と一色は静かに頷いた。
「それにしても、なんで怪人の秘密結社はダークムーンなんて名前なんだろうな?」
一色が素朴な疑問を呈した。
そういえば、なんでだろう?考えたこと無かった。
「太古の昔、地球には月以外にもう一つ衛星があったんです。それがダークムーン」
四十万が独り言のように説明を始めた。
「ダークムーンには怪人が住んでいました。しかし内戦で星ごと滅びてしまったので、彼らは地球に移住したんです。その移住先の大陸がアトランティスでした。アトランティスも内戦で滅びてしまい、逃げ出した怪人たちは世界中へ散り散りになりました」
「あいつらって宇宙人の子孫だったのか。内戦で故郷の星を滅ぼして、アトランティスも滅ぼすって、二回も身内同士で争って故郷と移住先を滅ぼしてんのかよ。どんだけ凶暴なんだよ〜」
一色が怪人の歴史にツッコミを入れている。
元はと言えば怪人は難民なわけだ。争って故郷を滅ぼした奴らは悪いけど、巻き込まれて逃げるしかなかった市民もいただろう。
「人間よりも優れた力……異能を持つ彼ら怪人は、西洋では悪魔や妖精、東洋では鬼や妖怪と呼ばれるようになりました。忌み嫌われていましたが、彼らと結ばれる人間もいました」
「異類婚姻譚とかってあるもんな」
「秘密結社ダークムーンは、昔から迫害される立場の怪人が革命を起こそうとして作った組織なのかもしれませんね」
「そうなってくると、どっちが悪いかわからない……」
と、俺は思ったけど。
「でもよぉー、忌み嫌われたのも異能があるからって人間を見下して偉そうにしてたからじゃね?悪魔、妖精、鬼、妖怪ってみんな偉そうにしてるだろ。怪人が偉そうってことだよなぁ」
一色が言うことも一理ある。
そんな雑談をしていると、誰かが電車に乗ってきた。
黒髪の長髪に黒いスーツの影を操る青年……影の怪人、名鳩 黒逸 だ!
俺たちは三人同時に立ち上がり、戦闘態勢に入る。
「おいおい」
名鳩は俺たちを見て肩を竦めた。
「俺は電車に乗っただけだよ?そりゃないんじゃないの」
俺も一色も四十万も、無言で名鳩を見据える。
「しょうがないなぁ。じゃあ、やりますか」
名鳩の影が生き物のように蠢き、俺たちに襲いかかった。
一色が念力による衝撃波で影を防ぎ、衝撃波と影がグイグイとお互いに押し合って膠着している。
名鳩は、影を一つしか操ることが出来ない。今なら……!と、四十万が両手から刃を生やして名鳩の方へ踏み込んだ。
その時、名鳩がスーツのポケットからナイフを取り出して四十万の足元に投げつけた。
ナイフが四十万の影に刺さると、四十万はその場から動けなくなってしまった。
影縫いだ。
こうなったら、俺が名鳩を倒すしかない……!
仕込み傘から抜いた刀を向けて突進すると、名鳩はひらりと身を翻し、鋭い蹴りを繰り出した。
名鳩に蹴られて吹っ飛んでいた俺の目の前には四十万の影に刺さったナイフがあった。
名鳩が一色に気を取られている隙に、俺は蹴られた痛みをこらえて床に這いつくばったままナイフに手を伸ばして引き抜いた。
一時停止をしていた動画が動き出すかのように四十万が名鳩に斬りかかるが、名鳩は素早い動きで致命傷を避け、腕の擦り傷で済ませた。
しかし、その擦り傷を俺は見逃さなかった。
増悪の異能を発動させると淡い光が名鳩の傷を包み込み、傷を悪化させた。
傷から噴水のように血が噴き出して、名鳩は血溜まりの中に倒れた。
生き物みたいだった名鳩の影もしぼんで普通の影に戻った。
念には念を入れて四十万が名鳩の体に刃を突き刺している。
「勝ちました」
四十万が勝利を宣言した。
電車の中は血塗れになり、俺たちは返り血を浴びていたが、電車から降りて乗り換えることになった。
「目立たないかな、返り血……」
襲ってくる怪人が悪いんだから、血が生々しいとか戦いが残酷だとかは気にしない。
でも、駅でこんな格好だとちょっと人目が気になる。
案の定、通行人にチラチラ見られている気がする。
「怪人退治学園の制服を着ているから不審には思われないはずですよ」
「早く行こうぜ」
四十万も一色も気にしていないようだ。
乗り換えた電車に敵はいなかった。
三人で座席に並んで座ったまま、目的地が近づいてくると三人とも口数が少なくなっていった。
ガタンゴトンと電車の音だけが車両の中に鳴り響く。
駅に到着した。
端末に表示される地図の通りに、辺鄙 で寂れた町中を目的地へ向かって歩いて行く。
なんだか足取りが重い。
徒歩10分って、こんなに遠かったか?
ごく普通の公園の隣に、幾何学的なデザインの灰色の巨大な建物が要塞のような威圧感でそびえ立っていた。
藻沼製薬研究センターに辿り着いたんだ。
一色は異形化させられた妹の蒼 さんのことが心配でたまらないはずだ。
俺は……ここで彼と向き合うことになるかもしれない。
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