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第17話

ついに俺たちは藻沼(もぬま)製薬研究センターに足を踏み入れ……ようとしたが、扉は固く閉ざされている。 頑丈そうな扉の横には、タッチパネルの機械が置いてある。 「これを操作して解錠するんじゃないですか?」 四十万(しじま)がタッチパネルを触り始めた。 「顔認証と指紋認証と声紋認証とIDとパスワードが必要だそうです」 「やってられっか、そんな面倒くせぇこと」 一色(いっしき)はイライラした声色で拒否した。 「まあ悪の組織の施設なんだからタダで扉は開かないよな」 ……とは言うものの、このまま立ち往生では困る。 どうしたものかと考えていると、一色が扉に向けて右手をかざし、雄叫びを上げた。 「うおおおおおおおおお!!!!!」 念力だ。念の異能によって周囲の空気が一変して、俺まで体が重く感じる。 見上げるほど大きな扉が、ピシピシと音を立ててひび割れ始めた。 そして扉が轟音と共に崩れ落ちると、一色は道を塞ぐ瓦礫を念力で豪快にどこかへ放り投げた。 「突入だ!」 「ま、待てよ一色!もっと慎重に……」 俺と四十万は突進する一色を追いかけて建物に侵入した。強行突破だ。 建物の中はネオンの光による未来的な装飾が施されており、秘密基地らしい雰囲気を醸し出している。 当然、怪人たちがいたけど一色の念力で紙屑同然に吹き飛ばされた。 俺たちは手当たり次第に自動ドアを開けて、部屋を一つ一つ調べた。 「(ひいらぎ)さん、一色さん。あれを見て下さい」 四十万が指差したのは、台座の上にある卵だった。 ダチョウの卵くらいの大きさの卵が置いてある。 これは怪しい。 「なんの卵だ?気持ち(わり)ぃから一応、壊しておくか」 「待って下さい、刺激しないほうがいいと思います!」 一色は卵を念力で壊そうとしたが、四十万に制止された。 「でもよぉ、いかにもヤバいもんが産まれますって感じじゃねぇか」 「そのヤバいもんが、壊そうとしたら出てくるかもしれないだろ。俺も触らないほうがいいと思う」 俺は四十万に同調した。 わけのわからない物には何もしないほうがいい。 謎の卵を一旦無視して、建物の探索を再開することにした。 螺旋階段を登った先の二階の広い廊下を進むと、突き当たりに大きな扉がある。 RPGなら中ボスが待ち構えていそうな扉だ。 この扉も自動ドアで、前に立つと静かに扉が開いた。 俺たちは足音を立てないように気をつけながら部屋に入った。 部屋は学校の体育館や講堂のように広々としており、今まで見たことがなく何に使うかもわからないような、遠い未来から持って来たような謎の機械が置いてある。 機械の前でタッチパネルを触って何か作業をしている白衣の男の後ろ姿が見えた。 海のような青緑色のふわふわした髪。 後ろ姿だが潜流(もぐる)だとわかった。 ここからは、一瞬の出来事。 チラッと右隣を見ると、一色が手をかざして集中している。潜流に攻撃を仕掛けるつもりだ。 潜流の異能は戦闘には向かないらしい。 しかも作業に集中していて、まだこちらに気付いていない。 それなら、一色の念力による攻撃を防ぐことは出来ないはず。 このまま俺が何もしなければ一色は潜流を殺すだろう。 俺は怪人退治学園の生徒で、一色は味方で、潜流は敵で、潜流は(あおい)さんを異形化させた張本人で、たぶん他にも色んな悪いことをしていて、世の中のためにも生かしておくことは出来ない。 でも、俺は……潜流に死んでほしくない。 「潜流!!」 気がついたら潜流の名を叫んでいた。 自分の声だとは信じられなかった。スピーカーから聞こえる声のような感じがした。 仲間を支えるなら、今は声を出してはいけないからだ。 銃声が聞こえた。 潜流が振り向きざまに銃を撃ったようだ。 でも、どこにも痛みは無い。 周囲を見回すと、一色が頭から血を流して倒れていた……。 俺たちが入ってきた扉とは別の自動ドアから潜流が逃げ出そうとしていて、四十万が両手から刃を生やして追いかけている。 二人は走って部屋から出て行った。 一色を治さないと! 俺は我に返って、治癒の異能を使った。 淡い光が一色の額に集まっている。 ところが、何秒待っていても一色の体が動かない。 焦っていて集中が足りないのか?深呼吸をして、集中して異能を使う。 「一色!目を覚ますんだ!」 返事が無い。 「寝てる場合じゃないぞ。起きろ!」 返事が無い。 「蒼さんを助けるんだろ!!」 返事が無い。 何度呼びかけても返事が無い理由がわかってしまった。 さっきの選択肢は二つあった。 一、一色が潜流を殺すのを黙って見ている。 二、潜流の名を叫んで潜流を助ける。 一色と潜流どちらかを選べば、どちらかは死ぬ。 怪人退治学園の生徒としての正解は当然、一の選択肢だ。俺は間違えたんだ。 俺のせいだ……!! 時間の感覚が無いからほんの数分か数時間かはわからないけど、俺は動かない一色の前でめそめそ泣きながら立ち尽くしていた。 時間が止まっているかのようだ。 ……潜流と四十万はどうなったんだ!? 泣いていても何も変わらない。 二人を追いかけなければならない。 俺は一色の目を閉じさせると、涙を拭って自動ドアから出た。

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