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第18話
俺は気が動転したまま誰もいない廊下をひたすら走っていた。
四十万 は潜流 を追ってどこかへ行っちゃったし、一色は……。
もう、救援要請を出そう。
立ち止まり、端末を操作して学園に救援要請を出した。
仲間が到着するまでに一時間くらいかかるはずだ。
辛くても進まなければと思って、廊下を走る。
その先に、誰かが血溜まりの上に倒れているのが見えた。
近寄ってみると、青緑色のふわふわした髪と白衣だった。
「潜流!?」
「うう……」
名前を呼ぶと潜流が呻いた。
おそらく四十万に斬られたのだろう。
でも、まだ生きている……!
四十万がとどめを刺さずにどこかへ行ってしまうなんて、よほど慌てているに違いない。
俺は迷っていた。俺の異能は二つある。
治癒と増悪……傷を癒す力と広げる力の両方を持っている。
潜流とは敵同士なのだから、増悪の異能を使ってとどめを刺すのが正解なんだけど……。
なぜか、潜流に貰ったシマエナガのぬいぐるみの顔が頭に浮かんだ。
そして、倒れている潜流に淡い光が集まり、みるみるうちに傷を治してしまった。
また間違ったことをしているんだ。
救援要請を呼んだくせに、今度は敵を助けるなんて、俺は何がしたいんだ……!?
「待てよっ!!」
その場から走り去ろうとすると、潜流に呼び止められた。
振り向くと倒れていた潜流が立ち上がり、俺を睨んで銃を構えている。
白衣は血で汚れていた。
「えーっ!!助けてあげたのに撃つ気かよ!?」
「生け捕りにするだけさ。異能は治癒か……なんで僕を助けた?」
「それは……」
俺が言い淀んでいると、カチカチと機械的な音が聞こえた。
潜流が銃で俺の脚を狙っていたように見えたけど弾切れのようだ。
リロードの隙に俺は廊下の曲がり角を曲がって逃げ出した。
その時、廊下の床がパカッと四角く開いて、落とし穴のようなところに落ちてしまった!
暗くてよく見えないけど、滑り台のようなところに落ちて、体が滑っていく。
「うわあああぁぁ〜……」
こんな変な仕掛けがあるとは。こうなってしまったら滑り続けるしかない。
プールのウォータースライダーのような滑り台をしばらく滑り続けて、どこかの部屋に放り出された。
部屋の中はネオンの装飾以外は何も無く、扉が一つだけある。
「柊 さん!!」
自動ドアが開いて四十万が現れた。
「四十万!」
「柊さん!私、さっき藻沼 潜流 を斬りました。でも戦闘中に私が落とし穴に落ちてしまったんです。柊さん、怪我は無いですか!?」
「あ、ああ……俺は大丈夫だよ。救援要請も出しておいたし」
四十万は安心している様子だけど、俺がしたことは四十万を裏切ったことになる。
潜流の傷を治してしまったのだから……。
部屋から出て廊下を四十万と二人で進んでいると、四十万が独り言のように語り始めた。
「私、家族を怪人に殺されたんです。私が本を買いに行くちょっとの時間に、家に怪人が侵入していて……。私は必死で逃げて、怪人退治学園の生徒が助けてくれたんですけど。そのことが、私が入学するきっかけだったんです」
「そうか……」
四十万にそんな重い過去があったなんて。
ますます怪人を助けたなんて言えない。
言えるわけがない。
「ですから、怪人は絶対に許せないんです……」
俺は相槌を打つことも出来ず、無言で頷いた。
廊下の突き当たりに大きな自動ドアがあり、開けると大広間に出た。
壁一面にたくさんのモニターがあり、施設の全てをカメラで監視出来るようになっている。
そこで俺たちに背を向けてモニターを見ていた男がくるりと振り向いた。
ふわふわした青緑色の髪、ビシッと決まっているダブルのスーツ、潜流にどことなく似ているおじさん。
写真でしか知らなくて、本人に会うのは今日が初めてだけど間違いない。
藻沼 神機郎 ……!
潜流の父親で、藻沼製薬の社長というのはカタギの肩書き。その正体は、怪人による世界征服を企む秘密結社ダークムーンの首領だ。
「初めまして。私が藻沼神機郎だ。ダークムーン本部へようこそ、怪人退治学園の生徒さん」
神機郎はボウ・アンド・スクレープという恭しい西洋風のお辞儀をした。
やっぱりここはダークムーン本部だったのか。
「さて、君たちは勇敢にも私を倒しに乗り込んできたのだろうが、異能は使えるかね?」
俺は四十万がすぐさま肌から刃を生やして斬りかかるだろうと予想して隣を見た。
しかし、四十万は微動だにしない。
「四十万、刃はどうしたんだ!?」
「大変です!異能が使えません!」
「な、何だってー!?」
これが藻沼神機郎の異能なのか!?
「私の異能は無効化でな。最強にして最弱。攻撃には使えん。こうして普通の人間のように武器で戦うしかないのだよ」
神機郎がベルトに付けた鞘から日本刀を抜いたので、俺も慌てて番傘から仕込み刀を抜いた。
「四十万!逃げろ!神機郎、俺が相手だ!」
四十万は異能が使えない上に丸腰ではどうしようもなく、引き返して自動ドアから逃げた。
こうなったら、異能無しでも俺が神機郎とチャンバラするしかない……!
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