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第19話
俺は仕込み刀を握り締め、目の前の男、藻沼 神機 郎 を睨みつけた。
「お前が世界征服の野望を潜流 に手伝わせているんだな!?」
「強制などしていない。私の世界征服の野望と潜流のマルチバース研究は両立が可能だからな。私は研究資金を提供して潜流は技術を提供する。ギブアンドテイクだよ」
「怪人による支配なんてさせるわけにはいかないぞ!」
「今までの歴史は人間が怪人を支配してきたのだ。逆転したところでただの公平というものだろう。なぜ止めようとするのかね?君自身がすでに純然たる人間とは言えないというのに」
「それでも、俺には人間の家族がいるんだ!」
「ふむ……、話し合いの余地は無いようだ」
神機郎の青緑の髪が蛍光のように光を反射し、スーツの皺までもが冷酷な秩序を宿している。神機郎の刀の刃先はまるで空気を切り裂くように静かに俺を威嚇している。
ここからは異能による治癒も増悪も使えない純粋な力だけの勝負になる。
神機郎は軽やかに刀を振るい、最初の間合いを測る。
まるで空を舞う鳥のように、刃が光の線を描く。
俺は足をしっかりと踏み込み、刀で受け止めた。
「く……っ!」
衝撃が金属的な音と共に手元に伝わる。
神機郎の力は異能を無効化するだけではなく、純然たる剣技もまた卓越していた。
俺の力で受け止めるには重厚すぎる刀の圧を感じながらも、俺は刀身を滑らせて受け流す。
互いの呼吸が剣の振動を通じて空気を震わせる。
まるで時間が極限まで緩慢になったかのように、俺たちの間合いは静止するかに見えた。
神機郎の眼光が俺を穿つ。しかし俺もまた直感に従って心を無にして刃と刃を交わす。
神機郎は軽やかに前に踏み込み、斬撃を放った。刃が空気を切り裂き、耳をつんざくような音が鳴り響く。
俺は右に身を転じ、刀の腹で受け止め、反動を利用して体を低く沈めた。
「よし…!」
俺は自分の体幹の軸を意識しながら、神機郎を狙う。だが、神機郎もただ者ではない。体勢を翻し、刀を構えて反撃。
次の瞬間、神機郎の刃先が俺の肩元をかすめる。
刃は皮一枚で逸れた。
互いに呼吸を整え、再び間合いを詰める。
神機郎は攻撃のリズムを変え、斬撃の方向を次々と変化させてくる。斜めに、縦に、横に、その刃はまるで水面に波紋を描くかのように、連続して俺に迫る。
俺は本能的な反射による動きで、ひとつひとつの斬撃を受け流す。
刃と刃が交わるたびに火花が散り、金属がぶつかり合う音が大広間に響く。俺の心は、静かな集中で冴え渡っていた。
神機郎はさらに踏み込み、体勢を低くして斬り下ろしてきた。
俺は半歩後退しながら川の流れの如く刀を横に滑らせて受け流す。
その瞬間、相手の体勢がわずかに前傾し、バランスを崩した。
「今だ!」
俺は自分の呼吸と神機郎の動きを完全に読み切り、前へ踏み込む。
刀を縦に振り下ろし、神機郎の刃を弾き飛ばす。勢いを利用した俺の斬撃は的確に神機郎の胴体を捉えた。
刃が神機郎の腹をかすめ、彼は一瞬体をよろめかせる。
俺はその瞬間、さらに右足を踏み込み、体重を乗せた斬撃で神機郎へと迫る。
神機郎は咄嗟に刀を振り上げ防御するが、俺の刀は僅かに角度を変え、流星のような突きで神機郎の首を貫いた。
「ぐぉっ…!」
神機郎が苦痛の声を上げて倒れた。
返り血を浴びた俺は刀を番傘の中棒に納刀して息を整えた。
額に汗が流れ、番傘を握る手元が冷たく重く感じる。
俺はもう死んだ敵に向かって独り言を呟いた。
「もう戦いは終わりだ、神機郎。お前の野望は許さない……!!」
大広間に静寂が訪れ、壁一面のモニターの無機質な光が俺を照らしていた。
潜流と四十万 は無事に逃げられただろうか。
敵と味方の心配を同時にするなんて、おかしな話だけど。
突然に自動ドアが開き、誰かが入ってきたのかと警戒して一瞥すると、侵入者は人の姿ではなかった。
植物の蔓に見える細長いそれは、よく見るとイバラだった。
無数の棘が生えたイバラが触手のようにドアから押し入ってくる……!
「なんだこれは……!?」
俺は再び抜刀した。
これで終わりではなく、まだ怪人がいるんだろう。
一刻も早くここから脱出しなければならない。
イバラのせいで開きっぱなしになった自動ドアから廊下へ出ると、イバラで埋め尽くされていた。
行く手を阻むイバラを刀で斬りながら少しずつ廊下を進んでいく。
ようやく施設から屋外へ出ると、イバラを操る主がいた。
青薔薇の異形頭の怪人、一色 蒼 だ。
たくさんのイバラが蒼さんのスカートの中から伸びていて、蛇のように蠢いている。
「蒼さん……!?」
蒼さんは一色 中黄 の遺体を横抱きにしている。
顔が青薔薇なので表情はわからないが、兄の死の絶望に打ちひしがれているはずだ。
そして、蒼さんは知る由もないけど、一色の死は俺にも責任があることだ。
「蒼さん、お兄さんを助けられなくてごめん……。俺と一緒に学園に行かないか?君は被害者だ!学園に行けば入学出来るかもしれない!」
蒼さんは一本のイバラを横にブンブンと振った。
無理だ、という意味のジェスチャーのようだ。
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