20 / 25
第20話
俺は息を整え、刀を握る手に力を込めた。
青薔薇の異形頭を持つ蒼 さん……その体から伸びる無数のイバラが蠢き、まるで投網のように藻沼 製薬研究センター前の広場全体を覆っていた。
イバラの棘が空気を裂き、地面にざざっと音を立てて這い回る。一本一本が高速で伸び、俺の足元を狙うように跳ねる。
「ここで諦めるわけにはいかない……!」
刀を振り下ろすと、イバラは一瞬怯んだように後退したが、すぐに触手のように跳ね返ってきた。棘が刀の刃をかすめる衝撃が手に伝わる。俺は即座に後ろへ飛び退き、斬撃の勢いでイバラの一本を切り裂いた。だが、新しいイバラが伸びて数秒で再び絡みつき、何事も無かったかのように地面に広がる。
増悪 の異能を使おうとしたが、蒼さん本体にもイバラにも反応が何も無い。
イバラを斬っても、増悪の異能は通用しないようだ。
蒼さんの異形頭が俺をじっと見据える。表情はわからないが、確実にこちらを見ているのはわかる。その視線が、イバラを導く指令となり、広場のあらゆる方向から棘が弾丸のように飛んできた。俺は縦横無尽に身を翻し、刃で迎撃する。棘が床や壁にぶつかり、火花のように散る。
一本の長大なイバラが俺の右肩を狙い、鋭く飛んできた。俺は咄嗟に体を捻り、刀の峰で弾き返す。棘が腕にかすめ痛みを感じたが、すぐに異能で治癒する。続けざまに別のイバラが脚を狙って伸びてくる。俺は跳躍しながら空中で刀を回転させ、イバラを叩き斬った。
でも、蒼さんはただ待っているわけではない。体から次々とイバラが伸び、見晴らしが良かった広場をまるで迷路のように変えてしまった。俺は進むべき道を見失い、背後を警戒しながら一歩ずつ前進する。
「俺は負けない……!」
俺は思い切り踏み込み、刀を縦に振り下ろした。刃は一本の太いイバラを真っ二つに割ったが、同時にその衝撃で棘の連鎖反応が起こり、周囲のイバラが跳ね上がって襲いかかる。俺は体を回転させ、刀で防御しながら前進。棘が腕や脚を擦り、切り傷を作るたびに異能で治す。
蒼さんはその間も動じず、両手で抱えた中黄の遺体を守るようにしながらイバラを操る。一本の太いイバラが鞭のようにしなり、防ごうとした刃に叩きつけられた衝撃で俺は思わず後退させられる。膝が軋むが、すぐに刀を構え直す。
「このままじゃ……押し切られる!」
俺は思い切って斬撃を連続で放つ。イバラが跳ね返り、空中で絡み合う。一本一本を正確に斬るのは不可能に近いが、次第に突破口が見えてきた。
蒼さんはそれに気づいたのか、異形頭を傾けて一瞬だけ身を低くする。その瞬間、俺は全力で刀を振り下ろし、青薔薇の頭の付け根近くのイバラを叩き斬った。棘の連鎖が止まり、広場にわずかな静寂が生まれる。
蒼さんはまだ倒れていない。彼女のスカートの下から、さらに太く、硬質なイバラが跳ね上がる。俺はそれを見て、とっさに刀を振り上げて受け止める。イバラが刀を押し返す衝撃で腕が痺れる。
「まだ……だ……!」
俺は呼吸を整え、次の瞬間、閃光のように動き、横一文字に刀を振る。イバラの束が真っ二つに裂け、蒼さんの防御がわずかに崩れた。俺は勢いに乗じ、刀を握り直して突進する。
蒼さんもまた反撃に転じ、長く伸びるイバラで空間を封じようとする。一本のイバラが俺の脚を捕え、跳ね上がろうとした瞬間、刀を振り下ろし叩き斬る。弾かれたイバラは地面に激突し、破片が飛び散った。
俺はその隙を逃さず、刀を横に振り、蒼さんの足元のイバラを切り裂く。そして一気に距離を詰める。無数のイバラが迫る中、俺は刀を握り直し、地面を蹴って跳躍。真上から蒼さんに斬撃を叩き込む。
「……!」
蒼さんはイバラを瞬時に防御に回すが、刃の衝撃が伝わり、イバラが吹き飛ぶ。広場に一瞬の静寂が訪れる。
俺は呼吸を荒くしながらも、冷静に次の一手を狙う。
蒼さんはまだ立っている。イバラは再び地面から伸び始め、まるで息を吹き返したかのように蠢く。俺は一度後ろに飛び退き、刀を縦横無尽に振りながらイバラを切り裂く。棘の一撃が肩をかすめるたびに痛みが走るが、すぐに治癒する。後退は許されない。
俺は決意を固める。次の一撃で勝負を決めよう。
刀を両手で握り、深く踏み込み、天井高く振りかぶる。蒼さんの異形頭めがけて、力の限り斬撃を叩き込む!
イバラの束が一瞬止まり、青薔薇の頭がぐらりと揺れた。衝撃で棘が散乱し、地面にちらばる。俺は刀を地面に突き立て、再び構えを取り直す。蒼さんは微かに前かがみになり、次の攻撃に備えている。
俺は再び跳躍し、斬撃の連打を浴びせる。イバラの触手が空を裂き、俺の刃がイバラを弾く。蒼さんは防御に徹し、棘を飛ばす。その攻防が広場の空気を震わせ、地面が削られる音が響き渡る。
一瞬の隙、それが決着を分ける。俺は呼吸を整え、視線を蒼さんの異形頭に固定した。
「ごめん……!」
刀を横に振り、ついに青薔薇を椿の花が落ちるように一刀両断した。
その場には、蒼さんの首無しの遺体に折り重なって一色 の遺体が倒れている。
「終わったかい?」
俺が納刀すると、どこからともなく冷たい声が聞こえた。
ともだちにシェアしよう!

