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第21話
声の主は潜流 だった。
藻沼 製薬研究センター前の広場には、現代アートのオブジェがある。
俺と蒼 さんが戦っている間、潜流はオブジェの陰に隠れて様子を伺っていて、戦いが終わったタイミングでこうして姿を見せたんだ。
「もうすぐ学園の救援が来る。戦っても勝ち目は無いぞ!」
「玻璃彦 を生け捕りにしてデータを取ったり人体実験したりする暇も無いみたいだね。それなら僕がするべきことは一つさ」
潜流が持っている風呂敷のスイカ包みはスイカよりちょっと縦長の楕円形になっていて、ダチョウの卵のような大きさと形だ。
俺は藻沼製薬研究センターに走って引き返す潜流を追いかけた。
「待て!何をする気だ!?」
潜流を追って建物の中の螺旋階段を登り、二階の部屋に入った。潜流が作業をしていた部屋だ。
部屋の中にある謎の機械で取り囲まれた空間の中心には渦潮のような穴が浮かんでいた。
ぐるぐると中身が渦巻いている謎の穴の手前に潜流が俺に背を向けて立っていた。
「潜流!」
名前を呼ぶと潜流はくるりと振り返った。手にはやはりスイカ包みを持っている。
「やれやれ、しつこい奴だ。そんなに僕のことが気になるのかい?」
「気になるけど、今聞きたいのはそういうアレじゃないからな!するべきことって何なんだよ?」
「マルチバースの話はしただろ。この機械を使って他の宇宙へ行くんだ」
「マルチバースを旅したいって話は聞いたけど、理由までは聞いてない。なんで潜流は他の宇宙へ行きたいんだ?」
「理想郷を探すのさ」
「理想郷……!?」
「この世界は怪人と人間が争い続けている。怪人でも人間でもない僕にとっては、関係無い奴らと関係無い奴らが争い続ける宇宙でしかないんだよ。あーつまらない。もっとマシな宇宙を探しに行くんだ」
「その穴の向こうに、マシな宇宙とやらがあるのか!?」
「どんな宇宙だってここよりマシだよ。これからダークムーンは世界征服を目指すのはやめて、マルチバースを開拓する組織に生まれ変わる。そして首領になった僕は今からマルチバースガチャを引く!!」
気に入る宇宙へ行くためにマルチバースのガチャを引くだなんて、ガチャのスケールがデカすぎだろ。
変な宇宙へ行ってしまったらどうするんだよ。
「待てよ!」
潜流は渦潮のような穴に飛び込み、俺も潜流を追って飛び込んだ。
まるで不思議の国のアリスのように。
ってことは、この穴の向こうは不思議の国か?
真っ暗な穴の中で意識を失った俺が目を覚ますと、そこは……神社の境内だった。
見慣れた近所の神社で、四月に良縁成就のお守りを買った場所だ。
覚悟して飛び込んで、どんな異世界に飛ばされるかと身構えていたら近所の神社って!
どういうことなんだ……!?
そこに両親がやってきた。
「あ。お父さん、お母さん」
俺が声をかけると、両親は幽霊でも見たような顔をして駆け寄ってきた。
「玻璃彦〜っ!?」
「本当に玻璃彦なのか!?」
母は泣き出すし、父は俺の顔や肩や腕を触って実体を確かめているようだ。
「おいおい、なんなんだよっ!久しぶりだからって、大袈裟だよ」
「玻璃彦が交通事故で死んだと思っていたんだ。昨日がお前の葬式だったんだぞ!」
父が何を言っているんだかさっぱりわからない。
「わけわからないこと言うなよ。俺はこうして元気で生きているだろ」
泣いて大喜びする両親と共に帰宅することになったけど、なぜか俺が死んだことになっていたというのは、狐につままれたような話だ。
学園から借りている携帯端末を自宅で使おうとしても全く繋がらない。
更に驚いたのはスマホの日付が四月になっていたこと。
半年以上前に時間が逆行している!
リビングルームで両親がくつろいでいる。
部屋も家具も見慣れた自宅のものにしか見えない。
「お父さん、お母さん。俺は怪人退治学園の任務の最中に、悪の組織の幹部が作った機械のせいで神社に飛ばされていたんだ」
「何言ってるの?」
「怪人…?アニメの話か?」
「お父さんが怪人退治学園に俺を入学させる提案をしたんじゃないか!」
「なんのことだ?」
今までのいきさつを両親に話しても怪人退治学園どころか、怪人のことも知らない様子だった。
スマホで怪人について検索してみると、怪人はフィクションの存在で、実在しないことになっていた。
しかも、地球の衛星はずっと月だけしかないらしい。
ここは俺が暮らしていた宇宙ではないという確信を持った。
潜流の機械で他の宇宙に来てしまったんだ……!
スマホで藻沼製薬研究センターがあるはずの場所を検索しても、地図には無関係な建物が表示される。
というか、藻沼製薬そのものがここには存在しない。
怪人がいないのだから当たり前のことだけど……。
こちら側の両親も、厳密には俺の両親ではなくそっくりな別人だ。
こちら側の俺が死んでいたのは都合が良かった。
同じ顔で鉢合わせしたら面倒なことになるから。
これからするべきことは、潜流を探すことと、元の宇宙に帰ることだ。
この二つを目標にして行動する。
今はこの家で寝泊まりするしかない。
自宅そっくりな、よその家で……。
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