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第3話

「……ねえ、お前大丈夫?」 「え? 何がだ?」 「食欲さ。ちょっと朝から食べすぎじゃない?」 「えっ……?」 「九時過ぎにあれだけご飯食べたのに、市場でケイジの肉まんを欲しがるなんて変だよ。普段のお前だったら、絶対に『食べたい』なんて言うはずない。明らかにお前の食欲は増幅してる」 「……!」  言われてみれば確かに、朝から食べてばかりだ。  しかもこれだけ食べておきながら満腹になったという感じがなく、その気になればまだまだ食べられる気がする。  現に今は昼食の準備をしようとしているし、「食欲増幅している」と言われても否定できない。 「確かに、なんか変な気はする……。けど、俺も何でこうなってるのかわからなくて……」 「私も確実なことは言えないけど、このまま見過ごすのは心配だ。とりあえず今から出掛けようか」 「出掛けるってどこに? 俺の食欲に関係があるのか?」 「医療施設だよ。お前のそれ、初期の獣化かもしれない」 「えっ……!?」  そう言われ、少なからず衝撃が走った。  ――獣化? 俺が? 昨日まで何ともなかったのに、そんなことあるのか……?  獣化のことは、ある程度知っている。  ヴァルハラで長いこと生活していると徐々に魂がすり減り、人間らしさが薄まって獣じみてくるのだ。暴飲暴食が増えたり、どこでも眠くなってしまったり、性欲が抑えられなくなったりする。人間の三大欲求が剥き出しになり、理性がなくなっていくから「獣化」と呼ばれているのだ。  これが重症化してしまうと「手遅れ」と判断され、魂ごと破壊されてしまう。破魂されると戦士(エインヘリヤル)であっても二度と復活できなくなるため、そうなる前に然るべき施設で治療を受けないといけないのである。  それはわかっているのだが……。 「なあ、その施設ってグロアがいた場所だよな? あそこって、もうやってないんじゃないのか?」 「いや、新しい責任者になって再開してるよ。バルドル様の知り合いみたいだから、人格的には心配いらないと思う」 「そうなのか……? また変な実験とか、行われていないだろうな?」 「大丈夫だって。とにかく一度行ってみようよ。何もなければそれでいいし、もしよろしくない診断結果が出たら、その時また考えればいい」 「……まあ、そうだな……」  やむを得ず、アクセルは兄に連れられて例の施設に向かった。世界樹(ユグドラシル)を通り、二度ほど訪れた道を歩く。  建物のガワは、特に代わり映えしていなかった。  恐ろしいまでに真っ白な四角い建物で、窓も最低限しかついていない。建物の前には頑丈な鉄門があり、見るからに外界から「隔離」されている感じがした。

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