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第8話
ピピやカメの世話をよろしくな、と言って、アクセルは兄と別れた。
その後施設に戻り、ヴァーリに部屋まで案内される。
「アクセルさんはここを使ってください」
入院時の部屋としてあてがわれたのは、それなりに広い個室だった。
ベッドや椅子はあらかじめ用意されていて、ストレッチができるくらいのスペースもある。トイレやシャワー室もついており、かなり快適に過ごせそうだ。
「いいんですか? こんないい部屋を俺が使っても」
「大丈夫ですよ。今は入院患者もあまりいないので、大きい部屋も余っているんです」
「なるほど……」
「基本的に部屋では自由に過ごしていただいてかまいません。散歩や鍛錬も、鉄門の外に出ないのであれば好きにしてください。食事や起床・就寝の時間は決まっていて、午前中は施設内の雑用をお任せすることもあります。詳しいことはおいおい説明しますので、よろしくお願いします」
「わかりました」
夕食の時間まで自由にしていいと言われたので、アクセルはとりあえず自分の部屋をチェックしてみることにした。
ベッドはよくある一人用のシングルベッド、椅子もシンプルな四脚タイプだ。
シャワー室の棚には清潔なタオルが数枚用意されており、その中に簡易的なバスローブも挟まっている。就寝着に関しては、届けてもらわなくても大丈夫かもしれない。
ただ、自由時間中の「娯楽」の類いが何もないのは気になった。本や雑誌は一冊もないし、作業用のテーブルもない。ヴァルハラでたまにやっていた木彫りやDIYはできそうになかった。
かといって、午後の自由時間を全部トレーニングにあてるのは、さすがにオーバーワークになるし……。
――あ、そうだ。
ふとあることに思い至り、部屋を抜けて別の階に行ってみた。
かつての建物と間取りが同じなら、図書室もどこかにあるはずだ。場所は変わっているかもしれないが、探してみる価値はある。
そう思い、白い壁が続く廊下を歩いていった。
目印となるポスターや貼り紙がないので迷いそうだったが、手当たり次第に部屋を覗き込んで目的の場所を捜索してみる。
――そういえば、グロアが実験に使っていた部屋はどうなったんだろう……。
さすがにもう改装されているだろうか。いっそのこと、改装されて何もない部屋になっていたらいいなと思う。
もう、あのコピーたちはいないのだ。兄そっくりの偽物たちはいないのだ。
ならばいっそ、全てなかったことにしてしまった方がいい。実験の痕跡すら残さず、苦い記憶は全部忘れて、日常に戻った方がいい。
今のアクセルにできることなんて、何もないのだから……。
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