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第34話
そうしてできる限りの思い出を作った三日後、とうとうお別れの日がやってきた。
「ナイン……」
アクセルはベッドの横で、ナインの手を握り締めた。兄とは違う柔らかい手が、徐々に温かさを失っていく。
覚悟していたとはいえ、やはりその時が訪れるとどうしようもなく辛かった。
見た目が兄そっくりだから、余計にあの時の光景と被ってしまう。
生前、号泣しながら兄を見送った、あの時と……。
「……もう、なんて顔してるのさ……。笑ってお別れしようって、約束したじゃない……」
今にも泣きそうになっているアクセルに、ナインが小さく微笑みかけてくる。
最期の笑顔がとても眩しくて、とうとう堪えきれず涙がこぼれた。
「っ……そう、だけど……。俺、こういうのが一番苦手で……。親しい人を見送るのって、結構なトラウマなんだよ……」
「そう、なんだ……。だったら、ヴァルハラに帰ってもよかったんだよ……?」
「でも、見送らなかったら絶対後悔する……。だから、どんなに辛くてもちゃんと見送るって決めた……。決めたんだけど……やっぱり、辛いものは辛いんだよ……」
「そっか……」
泣いているアクセルの涙を、ナインが指先で拭ってくれる。その手つきさえも、今は弱々しい。
「……嬉しいな、そこまで惜しんでくれて。僕なんかが死んでも、誰も悲しんでくれないと思ってたから……。それだけでも、生きてきた価値はあった……かな……」
「ナイン……」
「こんな僕と、仲良くしてくれて、ありがとう……。もう、思い残すことはないよ……」
すーっ……とナインの力が抜けていく。
穏やかな微笑みを残しつつ、ナインは目を閉じた。
「あっ……」
アクセルは身を乗り出した。
ここからどうにかする方法なんて、ないことはわかっている。黙って見送るしかないのも承知している。
だけど目の前にいる人が、今まさに自分の手の届かないところに行ってしまう――それを止めることも、追い縋ることもできない現実が辛かった。何もできずに見ていることしかできない、その無力感に胸が潰れそうだった。
だから、誰かを見送るのは世界で一番苦手なんだ……。
「っ……ナイン……!」
アクセルはナインの手を握り締めた。
彼はもう反応してくれない。目を開けることもない。コピーとしての短い人生に幕を下ろしたのだ。
「……なあ、絶対生まれ変わってくれよ……? 俺、必ず見つけ出すから……そしたら、また仲良くなって、ピクニックでも行こう……。ナインの好きな甘い玉子焼き、弁当箱にいっぱい詰めておく、から……」
耳元で囁き、そっと顔を寄せて唇にキスする。
また温もりの残る唇は、悲しいくらいしょっぱかった。
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