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第35話

「はは……これじゃ本当に浮気になっちゃうな……。ナインは、治療中ですら気を遣ってキスしないでくれたのに……」  思えばナインは、最初から最後までずっと優しかった。アクセルの心が痛まないギリギリの立ち位置から、いつも面倒を見てくれた。  見た目が兄とそっくりだから、あと少し親密になっていたらうっかり惚れていたかもしれない。  帰ったら兄上に殴ってもらわなきゃ……などと考え、また涙が溢れた。 「うっ……うう……」  泣きながら、アクセルはナインの遺体が処分されていくのを見守った。  特にお別れの儀式もないまま機械的にナインは火葬され、後にはわずかな骨だけ残った。 「あの、ヴァーリ様……」 「何ですか?」 「もしよろしければ、ナインの骨……少しだけいただけませんか?」  もちろん家に帰ったら、家の裏に墓を立ててやるつもりだ。  だがそれとは別に、ナインの何か一部でもいいから施設の外に連れ出してやりたかった。外の世界を知らないナインに、少しでも施設以外の景色を見せてやりたかった。  ――まあ、これも俺の自己満足でしかないんだが……。  するとヴァーリは何を思ったか、筒型の小さなカプセルに骨を一欠片だけ入れてこちらに渡してくれた。 「人間の世界には、遺骨アクセサリーというものもあるみたいですよ。我々は神族なのであまり関係ありませんが、そういった悼み方もなかなかオツなものです」 「遺骨アクセサリー……」 「では、あなたの治療はこれにて完了ということで。当分獣化することはないと思いますが、気になる症状が出てきたら早めに受診してくださいね」  そう言われ、アクセルは施設を出ることになった。  サッと荷物をまとめ、施設の門から外に出る。 「…………」  振り返り、じっ……と施設の外観を眺めた。  短い間だった。だけど濃密な期間だった。少なくともアクセルにとっては、忘れられない出来事となった。  ――また会おうな……ナイン。  あなたが生まれ変わるまで、いつまでも待っているよ。  彼の骨が入ったカプセルを握り締め、アクセルはヴァルハラに戻った。

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