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第36話

 それから何年経っただろうか。  ヴァルハラにいると、自分も周りも歳をとらないので今がいつなのかわからなくなる。  日課のトレーニングや死合い、割り振られた仕事はこなしているが、大きなトラブルもなく平和なものだ。  ――ま、平和なのが一番なんだけどな。  今日は何の予定があるんだっけ……と考えながら、アクセルは朝食の準備をした。  慣れた手つきで玉子焼きを作り、出来上がったものを食べやすいサイズに切り分ける。  一人分だけ別の皿に移し、残りを自分たちの皿に盛った。  施設から帰ってからは、朝は毎日玉子焼きを作ることにしている。一種の願掛けみたいなもので、ナインが生まれ変われますようにと願いながら丁寧に調理していた。  未だにナインらしき人物とは遭遇していないものの、いつかきっと会えると信じて。 「ただいま」  兄・フレインが帰ってきた。  今日は最新のランクが発表される日で、死合いの組み合わせや仕事の割り振りもわかるのだ。  兄はそれを世界樹(ユグドラシル)の前まで見に行っていて、ついでにスケジュール表ももらってきてくれたようだ。 「はいこれ。今月の予定だよ」 「ありがとう。そこ置いといてくれ」  そう言って、アクセルは朝食の皿をテーブルに並べた。  今日は少しテイストを変え、東洋風の朝食――焼き魚と味噌汁、白米にしてみた。  ケイジに「自分の故郷では、こういったメニューが多かった」と聞いたのだが、再現できているだろうか。 「ところで、玉子焼きチャレンジってこれで何日目?」  と、兄が聞いてくる。 「私のコピー……ナインくんだっけ? まだ生まれ変わってないのかな」 「わからないな……。こればっかりは、黄泉の女王(ヘル)の采配次第だから」 「でも、女王様にはお願いしてきたんでしょ?」 「したことはしたが、俺がどうこうできるものじゃないしな……。俺はただ祈りながらその日を待つだけだ」 「そっか。早く再会できるといいね」 「……今更だけど、兄上は複雑じゃないのか? いろいろ思うところがあるだろ」 「いや……私は別に、お前の友達が増える分には全然構わないよ。お前、意外と友達少ないもんね」 「う……」  言われてみれば、自分が親しくしている友人なんてチェイニーとアロイスくらいしかいない。いつも兄と一緒にいるせいか、それ以外の人と遊びに行くことがほぼないのだ。  面と向かって言われたことはないが、もしかしたらずっと、「もっと友達作ればいいのに」と思われていたのかもしれない。

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