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第42話

「きみ、バルドル様の屋敷で働いている人かい?」 「ええ、そうですが」 「そうかい。ということは、最近雇われた新人かな? バルドル様、雇用に関してはあまり見る目がなかったみたいだね」 「! ……どういうことですか」  心外だとでもいうように、青年が立ち上がる。  兄はいつもの態度を崩さず、あくまで穏やかに言ってのけた。 「普通はさ、バルドル様に客人が来たっていったら主人に確認をとるものじゃない? アポイントがなかったとしても、相手の名前を聞いて『どうしますか?』って尋ねに行くのが当たり前でしょ? なんでそんな基本的なことすらできないの?」 「っ、それは……」 「更に言えば、こっちが『バルドル様に差し入れを』って言っている時点で、その弁当はバルドル様への贈り物になるわけだ。それを勝手に開封して、こんなにぐっちゃぐちゃにしちゃっていいの? いくら改めるためだとしても、こんな状態で届けられたらバルドル様だっていい顔をしないと思うけど?」 「し、しかし……」  しどろもどろになっている青年に、兄が追い打ちをかけた。 「新人だからまだ教育が行き届いていないのかもしれないけどさ、客人への対応には注意した方がいいよ。少なくとも、相手がどこの誰なのかわからない段階で雑な態度をとるべきじゃない。もし私たちが、きみなんかより遥かに強い存在だったらどうするの? 失礼な態度をとられた腹いせに、切り捨てられても文句言えないんだけど?」 「じ、自分はただ、バルドル様への贈り物が問題ないか確かめたかっただけで……」 「だとしても、もう少しやり方ってものがあるでしょ。きみじゃ話にならないから、早くバルドル様を呼んできて。これ以上ごねるようなら、きみを排除してから屋敷に入らせてもらうからそのつもりで」  兄がにこやかに腰の太刀を少し見せびらかすと、青年はビビったように屋敷の奥に引っ込んでいった。  後には、青年が散らかした手つかずの弁当だけが残った。 「はぁ……」  アクセルは深々と溜息をついた。  食べられそうな部分は残っているものの、中身も蓋もすっかりぐちゃぐちゃになってしまった。この状態じゃ差し入れはできないだろう。  せめて一口くらい、ノインに甘い玉子焼きを食べてもらいたかったんだけどな……。  散らかされた弁当を片付けていると、兄も隣にしゃがんできた。

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