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第73話
満足そうに本を運んでいるノインを見たら、自分まで満足してしまってうっかり夕食の買い出しをするのを忘れた。
「……お前、夕飯の食材はどうしたの?」
家に帰って兄に聞かれ、ようやく買い物を忘れたことを思い出す。
「あっ……しまった! 今から買いに行ってくる!」
「え、なら僕も……」
「ノインは大丈夫だよ。近くの市場だし、すぐだから家で待っててくれ」
「ですが、荷物持ちくらいはやらないと……」
「持ってもらうほど大量に買わないよ。いいから兄上と留守番していてくれ」
「……。わかりました」
ノインはまだ何か言いたそうだったが、何かを察したように口を閉ざした。
アクセルは買い物籠を掴み、急いで市場に走った。
――ノインには悪いけど、二人で出歩くとまた浮気とか思われちゃうからな……。
勝手な噂をする方が悪いのだ……とは思うが、そんな噂をいちいち気にしなければいけないのも腹立たしい。
それなら最初から、噂されないよう立ち回った方が賢明だ。
市場が閉まる時間も近いから、パパッと必要なものだけ買って早く帰ろう。
そう思い、市場でミルクや卵、干し肉の売れ残りを買い取り、買い物籠に突っ込む。本当は葉物野菜も欲しかったが、新鮮なものは朝の早い時間に行かないと購入できない。なので、やむを得ずニンジンやジャガイモ等の根菜類を買った。
――ピピはどちらかというと葉物野菜が好きなんだが……しょうがないか。
今日はニンジンスープで我慢してもらおう。
必要な食材は買い込んだので、早く帰ろう……と市場を離れようとした時、
「アクセルさん」
不意に誰かに呼び止められ、アクセルはそちらを振り返った。見覚えのない若い戦士 だった。……誰だ?
「こんな時間にお買い物ですか。お疲れ様です」
「はあ、どうも。それで……何の用だ?」
「いえね、欲求不満がおありなら、是非一度わたくしどもの店に足を運んでみては……と思いまして」
「……は? 一体何の話だ?」
「浮気なさっているんでしょう? 真面目なアクセルさんがそんなことをするとは……余程不満が溜まっているのかなと」
「っ……」
なんだそれは。ただ噂されるならまだしも、そこから更にあらぬ方向へ誤解されてしまっている。
さすがにうんざりして、アクセルは強めの口調で否定した。
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