74 / 86

第74話

「だから違うんだよ。俺は浮気もしてないし、欲求不満も溜まっていない。ただ友人と歩いていただけだ。変な誤解しないでくれ」 「おや、左様でございますか。ですが、わたくしどもの店に来ていただきたいという旨は変わりませんので」  にこやかに誘いをかけてくる青年。先程から笑顔が一切変わっておらず、そこはかとない不気味さを感じた。  ――何なんだ、こいつ……。そんなに店に来て欲しいのか……? でもその店、絶対ロクな店じゃないだろ……。  欲求不満がおありなら……と言っていたところからして、多分そういういかがわしいことをする店なんだと思う。  ヴァルハラも以前より娯楽施設が増えたので、綺麗どころが集まる「そっち系の店」があることも知ってはいた。  が、アクセルは今まで一度も行ったことはないし、興味もない。行っている人を否定はしないが、自分自身は断固拒否という感じだ。  眉を顰め、素っ気なく手を振る。 「悪いが、俺はそういう店には興味ないんだ。客を求めているなら、別のヤツを当たってくれ」 「いえ、わたくしどもが求めているのは客ではございません」 「えっ……?」 「もちろん、お客様がいらしてくれるのはありがたいことではございます。ですが今不足しているのは、どちらかというと従業員の方でして」 「……は?」 「アクセルさん、わたくしどもの店で働きませんか?」  そんなことを言われ、一瞬頭がフリーズしてしまった。  そっち系の店で働くということは、当然そういうことをするという意味でもあり……。  ちょっと想像したら寒気が襲ってきて、アクセルは邪険に首を振った。 「……話にならない。働くとか、もっと興味ないよ。悪いが帰らせてもらう」 「おっと、そういうわけには参りません」  帰ろうと思ったら急に数名の男たちに行く手を塞がれてしまい、ハッと息を呑む。全員アクセルよりガタイのいい大男で、これを一気に相手するのは至難の業と思われた。  どういうつもりかと青年を睨んだら、彼は相変わらず胡散臭い笑みを貼り付けたまま、にこにことこんなことを言った。 「実は、前々からアクセルさんに目をつけていたんです。顔もスタイルも抜群にいいですし、死合いを見る限り身体もとても丈夫です。これなら、どんな過激なプレイにも耐えられるでしょう」 「ふざけるな! 俺は欲求不満解消の道具じゃない!」 「おや。あなた、獣化の治療で例の施設に入院したでしょう? そこで性欲の治療を受けなかったのですか?」 「……? 何の話だ……?」 「性欲の治療のために、施設の従業員にお手伝いしてもらったのではないのですか?」 「っ……!?」  あまりの衝撃に、息が詰まりそうになった。  ナインとのやり取りが一気に脳内を駆け巡り、切ない気持ちと共にツンと目の奥が熱くなってくる。

ともだちにシェアしよう!