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第76話

「そんな固いことを言わずともよいではありませんか。フレイン様との仲がマンネリ化しているのなら、ここらでひとつ違った刺激を入れるのもまた一興」 「だからそれは誤解だと……」 「ご安心を。わたくしどもの店で行われることは、他言無用でございます。獣化しないよう、あらかじめ性欲を発散させているだけです。いわゆる『予防』のようなものなのです」 「予防って言われても、俺は欲求不満が溜まってるわけじゃないと何度言えば……」 「あなたの予防ではありません。他のお客様の予防ですよ。従業員としてスカウトしているのだから、おわかりになるでしょう?」 「っ……」 「そんなに心配なさらずとも、あなたならすぐに順応しますよ。まずは一度お店にいらしてください」  そう言われた途端、背後にいた大男に腕を掴まれてしまう。 「は、離せ!」  何とか振り解こうとしたのだが、思った以上に力が強くてすぐには振り解けない。少しは筋力アップしたと思ったのに、肝心なところではこの体たらくだ。情けない。 「あっ……!」  食料を買い込んだ籠がドサッと地面に落ちた。  ぐしゃ、と卵が割れた音がして、思わず顔を引き攣らせる。  ――どうしよう……。兄上たちが家で待ってるのに……。  パッと買い物してすぐに帰るつもりが、とんだ災難に見舞われてしまった。  誤解だといっても聞いてくれないし、意味のわからない理屈ですぐ言いくるめられる。  ならばと力ずくで突破しようにも、こんな大男が複数人相手ではさすがに敵わないし、正面の男を相手している間に他の男にやられてしまう。  どうする? 一体どうすれば、この状況を切り抜けられるんだ……? 「……うっ!」  必死に思考を巡らせていたら、正面の男に鳩尾付近を殴られてしまった。  視界が真っ白になってぐらりと目が回り、がくんと膝が折れて全身に力が入らなくなる。  ――しまっ、た……!  必死に意識を掻き集め、何とか失神しないよう努める。  だけどこうなってしまうと全身に力が入らないため、非力な素人とほぼ同じになってしまう。失神は回避できたが、それだけだ。  むしろ意識が残っている分、失神よりもタチが悪いかもしれない。 「ったく、手間取らせるんじゃないですよ。最初から素直に従っておけば、こんな手荒な真似をせずに済んだのに」  頭上から青年の声が聞こえてくる。  動かない身体をひょいと持ち上げられ、荷物のように肩に担ぎ上げられたのを感じた。  ――嫌だ、嫌だ……! 兄上えぇぇ……!  声も出せず、心の中で必死に叫んだ時だった。

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