78 / 86

第78話

 違う意味でぎょっとしていると、兄が小さく息を吐いた。 「……聞くに堪えない。これ以上話してても時間の無駄だ」  そう言い捨て、今度こそこちらを助け起こしてくれる。 「大丈夫? 自分で立てる?」 「あ、ああ……」 「じゃあちゃんと立ちなさい。買い物籠も自分で拾うんだよ」 「は、はひ……」  急いで立ち上がり、落とした買い物籠も拾い上げ、中を確認する。思った通り、卵はいくつかひび割れてしまっていた。 「兄上、あの……」 「さ、帰るよ」 「えっ? う、うん……」  それっきり、スタスタ歩き始めてしまう兄・フレイン。  アクセルは慌てて買い物籠を抱え、兄の後ろをついて行った。  ――なんか兄上、いつもより冷たいような……?  ピンチの時に駆け付けてくれたのは非常にありがたい。感謝している。  ただ、いつもならその後も「大丈夫?」と過保護なまでに心配して、家まで一緒に帰ってくれるのに、今日は自分だけ先に進んでしまう。  トラブルばかり起こす弟に呆れているのだろうか。あの程度の相手にちゃんと対処できなかったのを怒っているのだろうか。  それとも、別の何かに苛立っているのだろうか……。 「兄上……」 「なに?」 「……いえ、何でもないです」  結局何の会話もないまま、家まで帰り着いた。  家ではノインが留守番しており、そわそわしつつベランダから外の様子を見ている。  カメは相変わらず我関せずと寝床に寝そべっていたが、ピピはノインのことが気になるのか、うさぎ小屋から出てチラチラ彼を眺めていた。 「あっ、アクセルさん……!」  アクセルの姿が見えた途端、ノインがベランダからこちらにすっ飛んでくる。 「大丈夫でしたか? フレインさんが『嫌な予感がする』って家を飛び出してしまったから、僕も心配で……」 「あ、ああ……うん、まあ大丈夫だったよ」 「本当ですか? それにしては服がところどころ汚れていますが……」 「いや、その……実はうっかり転んじゃって、その時に籠も落として卵をダメにしちゃったんだよな」 「……え? 戦士(エインヘリヤル)でも転ぶことがあるんですか?」 「まあ、そんなこともあるってことで……。それよりこれから夕食作るから、ちょっと待っててくれ」  そう言って台所に向かおうとしたら、兄に買い物籠を取り上げられた。 「お前、夕食より先にシャワー浴びて来なさい。汚れた服もちゃんと洗濯するんだよ」 「は、はい……わかりました……」  アクセルは追い出されるように脱衣所に向かい、汚れた服を全部脱いで洗濯籠に入れた。  大男に抱えられたまま地面に叩きつけられたから、結構な泥汚れがついていた。  ――これは明日の朝、ドラムに入れに行かないとな……。  軽く溜息をつき、浴室でシャワーを浴びる。

ともだちにシェアしよう!