79 / 86
第79話
頭から熱湯を浴び、全身を洗っていたらだんだん脳が冷静になってきた。
――というか、なんで俺が兄上の顔色を窺わないといけないんだ?
よくよく考えたら、自分はそこまで責められるようなことはしていない。買い物に行って、その帰りにたまたま妙な連中に絡まれただけだ。
どちらかというと被害者という側面の方が大きいし、心配はされても怒られる筋合いはない。
じゃあ何に苛立っているんだろ……と考えてみたのだが、思い当たる節がなくて結局よくわからなかった。
――後で礼を言いつつ、聞いてみるか。もしご機嫌ナナメなら、何とかしておかないと後が怖いからな……。
そんなことを考えながら、アクセルはもう一度頭からお湯を被った。
浴室から出てタオルで全身の水分を拭き取り、新しい服に着替えてリビングに戻る。
キッチンでは兄がせっせと夕食を調理中で、ノインは所在なさげにリビングをウロウロしているところだった。
「ああ、アクセルさん……。今フレインさんが夕食を作ってくださっていますよ」
「それはわかったけど……買い物籠の中、大丈夫だったか? 卵、割れてたよな?」
「洗い直したので大丈夫です。それよりアクセルさんこそ、本当に大丈夫だったんですか? 何かよからぬことに巻き込まれていたのでは……」
「いや、俺は大丈夫。ノインは気にしないでくれ」
「ですが……もしまた僕関連で変な言いがかりをつけられていたら、アクセルさんに申し訳ないですし……」
ノインが落ち込みかけたので、「そうじゃないって」とフォローしようとしたのだが、
「ノインくんが罪悪感を抱いたところで、何の意味もないでしょ。ピンチの時に助けてあげられるわけじゃないんだから」
兄が、作った夕食の皿をテーブルに運んでくる。ミルクと干し肉を使ったホワイトシチュ―だった。
兄は淡々とした口調で、続けた。
「うちの弟はトラブルに巻き込まれることも結構多くてね、その度に私が駆け付けて助けてあげてるんだ。でも、こういうのは実力があるからこそできることで。大勢の大男に囲まれても返り討ちにできるから、大事な人のピンチにも駆け付けられるんだよ。でもノインくんは、家で心配しているだけだよね?」
「っ……」
「もちろん、足手まといになるくらいなら家で留守番しててくれた方がいいけど。でも、『僕のせいかも』って思ったところで何になるんだい? 本当に悪いと思っているなら、自分が迷惑をかけた時に相手を助けられるくらい強くなったら?」
「兄上、そんな言い方は……」
さすがにあんまりだと思って止めたのだが、ノインは小さく首を横に振った。
ともだちにシェアしよう!

