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第90話(フレイン視点)

「…………」  弟が寝室にこもったので、気になってしばらくしてから様子を見に行った。 「……はあ、やっぱり」  ベッドの側に寄り、弟の顔を覗き込む。  思った通り、アクセルは安らかな顔で爆睡していた。  まあ寝室に行った時点で読書や鍛錬ではないことはわかっていたけれど、喧嘩した直後に堂々と眠ってしまえる神経は、驚きを通り越して呆れてしまう。  ――まったく……お前って子はホントに……。  いや、昔からこうだったけど。  例えフレインに突き放されても、その時は落ち込むものの、心のどこかでは「兄上が俺を見捨てるはずがない」と信じている。「いざという時は兄上が守ってくれるから安心」と思い込んでおり、「もう助けない」と言ったフレインの言葉も冗談だと思っている。  まあ、そういう自分も、本気で弟を見捨てられるかって言ったら、無理なんだけど……。  ――なんか、弱みを握られてるみたいで釈然としないなぁ……。  アクセルには、もっと危機感を持って欲しい。  どんなに頑張っても助けが間に合わない時もあるんだから、あんな風にしょっちゅうトラブルに巻き込まれては困るのだ。  アクセルも多分、理屈ではそのことを理解している。頭ではきっとわかってくれている。  でも駄目なのだ。アクセルの根っこは典型的な「弟」であり、骨の髄から「何かあったら兄上が助けに来てくれる」と信じている。何度も同じような説教をしているのに、ずっと同じことを繰り返してしまうのは、恐らくそれが原因だ。  フレインも、そういう意味では典型的な「兄」であり、何かあったら最優先で助けに行ってしまう。「もう助けない」と言っても、気が気じゃなくて結局助けてしまう。  それは自分の甘さでもあるのだろう。  ――だってしょうがないじゃない……。可愛いものは可愛いんだもん……。  フレインは眠っている弟の頬を撫でた。弟は全く起きることなく、見事に眠り続けている。  危ない目には遭って欲しくない。あっさり殺されるならまだしも、生かさず殺さず囚われ、延々と知らない連中に弄ばれ続けるなんて、こっちが耐えられない。  そんな目に遭わせるくらいなら、多少過保護でも常に一緒に行動して守ってあげた方がずっといい。  ……まあ、そんなことしてるから、弟の危機意識が全く育たないのだけど。  ――本当にどうしたらいいんだろ……。  いつも通りお仕置きしてもベッドで気持ちよくなるだけだし、長時間閉じ込める系のお仕置きは文句を言われるし……どうすればいいかさっぱりわからない。 「はあ……もう」  ぺちん、とアクセルの頬を叩く。それでも弟は全く起きなかった。  深々と溜息をつき、フレインは寝室を出た。  この葛藤は、当分解決しそうになかった。

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